応募書類が、みんな「立派」になった
最近、採用のご支援をしている企業の経営者や人事の方から、「応募書類がどれも立派で、差がつかなくなった」という声をよく伺います。
生成AI(文章などを自動で作る人工知能)の普及によって、履歴書や職務経歴書、志望動機は、誰でも整った文章で書けるようになりました。面接の想定問答も、AIに頼めば数分で用意してくれます。「書類は素晴らしかったのに、会ってみると印象がずいぶん違った」というご経験をお持ちの方も、少なくないのではないでしょうか。
「AIで盛った応募者=不誠実」ではない
ただ、ここで申し上げたいのは、「AIで書類を整えた応募者は不誠実だ」と考えるのは早計だ、ということです。そもそも私たち自身、日々の仕事で文書作成にふつうにAIを使い始めています。道具をうまく使って自分を良く見せる工夫は、入社後の仕事でも役に立つ能力の一面ですらあります。
問題は応募者の側にあるのではなく、「本人が1人で作ったアウトプット」を前提に人を判断してきた、「選考の仕組み」の側が時代に合わなくなったことにあるのだと思います。
見るべきは「作品」ではなく「行動の事実」
では、何を見極めればよいのでしょうか。
私は「作品ではなく、事実を見る」ことに尽きると考えています。エントリーシートや経歴書、面接での流暢な受け答えは、いわば「作品」です。作品はAIで磨けます。しかし、その人が過去に実際に何をしてきたかという「行動の事実」そのものは、AIには作れません。
心理学では古くから「過去の行動は、将来の行動の最良の予測材料」と言われてきました。採用研究の古典であるシュミットとハンターの分析(1998年)でも、その場の雑談で印象を確かめるような面接よりも、聞くことをあらかじめ決め、過去の行動を具体的に尋ねる「構造化面接」のほうが、入社後の活躍をはるかによく予測することが示されています。
細部を聞けば、作り話は続かない
具体的には、成果自体よりもそれを生み出したプロセスを、抽象論よりも当事者にしかわからない細部を聞くことです。
「リーダーシップを発揮しました」という言葉で終わらせず、「そのとき、チームは何人でしたか?」「最初に、誰に、何と声をかけましたか?」「なぜその選択肢を選んだのですか?」「うまくいかなかったとき、どうしましたか?」と、こちらの頭にイメージが浮かぶまで具体的に掘り下げていく。
作り話は、細部への質問に耐えられません。逆に、本当に経験したことは、細かく聞けば聞くほど生き生きと語られるものです。AIは想定問答を作ることはできても、本人が生きていない経験の細部までを埋めることは当然できないのです。
また、1人の面接官の直感に頼らず、あらかじめ決めた同じ質問を複数の面接官で聞き比べることも有効です。評価のばらつきが減り、面接官間の「当たり外れ」を小さくできます。
※最新号のみ、会員登録(無料)なしで閲覧いただけます
●文/曽和利光(そわ としみつ)
株式会社人材研究所代表、人事コンサルタント
大学卒業後、リクルート、ライフネット生命保険、オープンハウスなど、さまざまな企業で採用や人事、組織開発の責任者を務める。2011年、人事コンサルティング会社、株式会社人材研究所を創業。大手から中小、外資系、ベンチャー、官公庁など、多くの組織に向けて人事や採用のコンサルティング・研修・講演を行っている。著書に『採用に強くなる』(日経文庫)、『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など多数。