近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2026年8月25日)
【事案の概要】
本件は、東日本大震災の際、海岸から約100mの距離にあった被告会社の支店に勤務中、支店屋上に避難していた行員らが津波で亡くなったり、行方不明になったりした事故について、遺族が被告会社の安全配慮義務違反を主張して損害賠償を求めた事案です。
支店では、地震発生後、外出先から戻った支店長の指示により、行員らが支店屋上(2階屋上まで約10m、塔屋を含め約13.35m)に避難しました。当時の行政の想定や当初の大津波警報を前提とすれば十分な高さでしたが、実際にはこれをはるかに超える津波が襲来し、被災しました。
遺族側は、地震発生前の義務として、避難訓練の実施義務等のほか、災害対応プランの改正時に、従来の指定避難場所である高台より低い支店屋上を避難場所として追加したことの誤りを主張しました。そして地震発生後の義務として、当初から高台への避難を指示すべき義務、屋上避難後に高台へ避難場所を変更すべき義務等の違反を主張しました。
【裁判所の判断】
一審(仙台地裁H26.2.25判決、労判1123号63頁)は請求を棄却し、本判決も遺族側の控訴を棄却しました(その後、最高裁で確定)。
(1)屋上を避難場所に追加したことについて
被告会社は、行政のガイドラインや被害想定調査を参考にし、県への照会も行ったうえで、指定避難場所まで避難する時間がない場合等に備えて、避難場所の選択肢を増やす趣旨で屋上を追加していました。裁判所は、屋上は想定されていた最大級の津波に耐える構造と高さを備えており、高台より避難に要する時間が短く移動中の危険も回避できるとして、追加には「合理性がある」と判断しました。
(2)高台への避難を指示しなかったことについて
裁判所は、安全配慮義務の対象となる回避すべき危険は、具体的に予見することができる範囲のものとするのが「相当である」との判断枠組みを示しました。そのうえで、津波到達予想時刻までに得られた情報からは、屋上を超える高さの津波の襲来を「具体的に予見し得なかった」としました。
また、津波の高さの予想にかかわらず、より安全な場所があればそこへ避難すべきとの義務を課すことは、際限のない避難行動を求めるものであり、不確定ないし過大な義務を課すことになるから「相当でない」とも判示しています。
予想が10m以上に修正された後に「避難場所を変更すべきであった」との主張についても、その時点では既に津波到達予想時刻を過ぎ、高台への移動中に被災する危険が十分にあったことから「屋上に留まる危険が、移動する危険を明白に上回っていたとは言えない」として、義務違反を否定しました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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