新卒者の1割が、1年以内に退職
厚生労働省が発表している「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」によると、毎年10%以上の人が1年以内で離職していることが分かります。パート、アルバイトの場合は、それ以上の人が辞めてしまいます。私がセブンイレブンのFC店を経営していたとき、朝、夕の気温が下がり、秋の気配を感じるようになった時期に、「オーナー、お話があるのですが…」と、スタッフから切り出されて、退職願いを受け取ることが多かったと記憶しています。なぜ、入社して半年が経過したころに、就職した会社やアルバイト先を「辞めよう」と思うのでしょうか?
入社してしばらくの間は、右も左も分からない状況の中で、ただがむしゃらに、目の前の業務をこなすという状況が続きます。半年ほど経過すると研修もひと段落し、周りや自分の置かれている状況をある程度冷静に見つめられるようになります。まだまだ、仕事に慣れたわけではありませんが、ほんの少し気持ちにゆとりが出てくる時期です。
そうすると、これまではとくに気にならなかった上司や先輩の話していることや行動に対して、批判的な気持ちが芽生えたり、納得できなかったりすることが出てきたりします。同期たちと食事に行ったときや、学生時代の友人と顔を合わせた際に情報交換をすれば、自分の状況と比較した際、どうしても自分以外の人のほうがよく思えるものです。
このとき、入社した際に期待していたことと現実の間に大きなギャップを感じ、このまま今の職場で働き続けることに不安を覚えるのです。
最初の1〜3カ月は高揚期、その後6カ月前後で挫折期
ノルウェーの社会学者リスガード(Lysgaard)が提唱した「異文化適応のU字カーブモデル」では、最初の1〜3カ月は新しい環境への期待感から高揚期を迎えますが、その後6カ月前後で挫折期に入り、不安や葛藤を強く感じやすいとされています。この心理の揺れは、新しい会社に入社した人の多くに共通して見られる傾向です。
また、秋になると企業で「第2新卒採用」の動きが活発になるので、転職情報を目にする機会が増えます。そうなると、「今ならまだキャリアのやり直しが効く」と考えて、転職に踏み切るケースが増えることも原因の1つです。加えて、単純に、秋になると日照時間が少なくなるので、センチメンタルな気分になり、ちょっと嫌なことがあると、やる気が下がってしまい、離職してしまうというケースもあるでしょう。
ただ、年末の繁忙期に向けて、組織を固めていかなければならない時期に離職されてしまうと、戦略が低下し、場がうまく機能しなくなるので、一人たりとも離脱者を出したくはないものです。どうすればいいのでしょうか?
●文/岡本文宏(おかもと ふみひろ)
メンタルチャージISC研究所株式会社代表取締役、繁盛企業育成コーチ
アパレル店勤務、セブンイレブンFC店経営を経て、2005年メンタルチャージISC研究所を設立。中小企業経営者、エリアチェーンオーナー、店長などに向けた小さな組織の人に関する問題解決メソッドや、スタッフを活用して業績アップを実現する『繁盛店づくり』のノウハウを提供している。『仕事のできる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』(WAVE出版)、『人材マネジメント一問一答』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『店長の一流、二流、三流』(明日香出版)、『繁盛店のやる気の育て方』(女性モード社)など著書多数。
https://okamotofumihiro.com/