<ストレス心理コンサルティング>
大きな事故は、それが起きる前に小さなミスやエラーがいくつもあることが考えられる。小さなミスやエラーの段階で気づいていれば、事故を避けられるかもしれない。日頃の注意深さや冷静な判断が大切だ。
「ハインリッヒの法則」と「バードの法則」
突然起きた事故でも、背後には数多くの予兆が潜んでいる。「ハインリッヒの法則」というものがある。アメリカの損保会社の安全技師だったハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が調査をもとに導き出したもので、安全管理の基本理論として知られている。1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故と、300件のヒヤリハット(事故には至らないが、ヒヤリとしたりハッとしたりする危険な状態のこと)があるというものだ。
同様の研究に「バードの法則」があり、アメリカの安全管理研究者、フランク・E・バードが提唱したものだ。297社の175万件の事故報告を分析し、「1(重傷又は廃失):10(傷害):30(物損のみ):600(傷害も物損もない事故)」という比率を導き出したものだ。
2つの研究成果から言えることは、小さな事故やミスだからと言って放置せず、すぐに対応する必要があるということだ。
腐ったリンゴ理論
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学で組織行動学を研究するウィル・フェルプスらは、組織やグループで仕事(作業)をするとき、「どのような人物が悪影響を与えるか?」を明らかにするため「腐ったリンゴの実験」を行った。腐ったリンゴとは、集団内で悪い影響を及ぼす人のメタファーである。英語のことわざである「1つの腐ったリンゴは、樽に入ったすべてのリンゴをダメにする(one rotten apple spoils the barrel)」に由来したものだ。
実験では、チームに悪影響を与える典型的な3タイプを想定し、演技力の高い人物にその役目を演じさせ、組織の生産性に「どのくらい影響を与えたか?」を調査した。その結果、タイプに関わらず生産性が30〜40%低下することが分かった。
これを交通事故にあてはめて考えると、ドライバーの中に危険な運転をする人がいると、ほかのドライバーも影響を受ける可能性があるということだ。車を運転していて危険なドライバーに遭遇したときに、腹を立てて冷静さを失ったり、注意力が散漫になったりした人は少なくないだろう。
有効視野
はじめて走る道路では信号の位置やカーブの角度など、分からないことだらけだ。そういう場合、人の視野は緊張で狭くなるようだ。つまり、見えない領域ができてしまう。そういうとき、ふいに人や自転車が現れると、ハンドル操作を誤り、事故を起こす可能性がある。
有効視野という言葉がある。中心を見ているときに、同時に見える周辺の範囲のことだ。普段の視野と比べて、山道のような起伏の激しい場所や廊下によって視野が狭くなることがある。有効視野は、交通事故と深く関連している。視野が狭くなっていると感じたら、視野が広がるように周囲の景色を見るなどしてみることだ。
危険予知訓練
危険予知訓練というものがある。労働災害を防ぐために、作業や職場にひそむ危険性や有害性などの危険要因を発見し、解決する能力を高めるために行われる。
交通事故の予防でも取り入れられており、例えば、道路の死角から「突然、子供が飛び出してきたらどうするか?」、あるいは見通しの悪い交差点を走るときに「どんな危険が潜んでいるか?」を想像してみるというものだ。
さまざまな場面で危険予知訓練をしているうちに、危険に対する感覚が敏感になってくるはずだ。危機予知訓練は、YouTubeでも紹介されているので、試してみるといい。
※参考・引用書籍
『ヒューマンエラーの科学』村田厚生/日刊工業新聞社
『ヒューマンエラーを理解する』シドニー・デッカー/海文堂出版
参考・引用サイト
『「75歳以上でも「安全運転」はできるのか…事故を起こす人ほど衰えている「運動脳」の効果的な鍛え方」朴啓彰/プレジデントオンライン
『「交通事故多発者」は一定数いる!事故多発者の特徴は3つと教育方法』ジェネクスト2020年3月
『交通事故の心理学:事故を起こしやすい人とは?:高校球児の事故報道を受けて』碓井真史/ヤフーニュース2013年8月
『交通事故リスクの認知バイアスに関する研究』大川貴志ら著/土木計画学研究・講演集(CD-ROM)
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。