一段掘り下げて質問する
俳優の仕事でも、似たことがあります。演技が不自然な人ほど「泣こう」とします。でも、本当に心を動かす役者は「相手の話を聞こう」とします。聞いて、受け止めて、その結果として感情が生まれる。だから自然なんです。
職場で、上司が部下に「最近仕事がうまくいかなくて…」と相談を受けた瞬間、「それは考え方が甘い」と言ったら、たぶん次から相談は来ません。でも、上司が「うまくいかないと感じたのは、どんな場面だった?」と聞いたら、部下は「この人は話を聞いてくれる」と感じます。信頼は、アドバイスの量ではなく、理解の深さで決まるのです。
私が企業研修でおすすめしているテクニックがあります。それは、相談を受けたら、相談内容について一段掘り下げて具体的に質問することです。
<例>
・「最近忙しい」と言われたら
→「予定が詰まっている感じですか? それとも急な仕事が増えていますか?」
・「新人との距離が難しい」と言われたら
→「話しかけるタイミングですか? それとも指導するときですか?」
たったこれだけです。すると、不思議なくらい相手は話し始めます。人は「答えをくれる人」より、「自分の頭の中を整理してくれる人」を信頼するからです。
話に体温がある人
話し方の本を読むと、「こう話せば相手は動く」というテクニックがたくさん紹介されています。もちろん、それらも役に立ちます。でも、本当に信頼される人は、相手を動かそうとはしません。相手を理解しようとしているのです。その姿勢があるから、言葉に重みが生まれます。そして、その積み重ねが「この人の話なら、一度やってみよう」という信頼につながっていくのです。
話し上手を目指すのも素敵です。でも、それ以上に「この人はちゃんと話を聞いてくれる」「この人は話を盛らない」「この人は分からないことを分からないと言える」。そんな人の方が、仕事では長く信頼されます。私はそういう人を「話がうまい人」ではなく、「話に体温がある人」と呼んでいます。テクニックだけでは出せない温度があります。その温度こそが「この人、本当のことを言ってそうだな」と感じてもらえる理由だと思います。
●文/桑山元(くわやま げん)
研修講師・お笑い芸人・俳優。早稲田大学教育学部を卒業後、大手損保会社に入社。新入社員代表として答辞を務める。入社2年目に資産運用担当者として1,000億円を運用。その後、メインバンク本店担当部署で法人営業を経験。同社を退社後、声優養成所を経て、時事ネタを得意とするコントグループ「ザ・ニュースペーパー」に19年間所属。2022年に退団し、芸人と研修講師の二刀流で活動スタート。会社員時代に培ったビジネススキル、お笑い芸人として磨いたコミュニケーションスキルとアドリブ力などを武器に、企業や自治体などで数多くの研修を実施。メディア出演・掲載実績多数。著書に『すぐ使える!おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』(日本実業出版社)。キャリアコンサルタント(国家資格)、損保代理店資格(特級・一般)、ニュース時事能力検定(準2級)。