親の背中をつくっているのは企業
今回の調査では、親が家庭で仕事や職業について話すことが、子供の進路・職業選択に影響している可能性が分かりました。では、その親自身は、どのような環境で働いているのでしょうか。どんな人が、家庭で自身の仕事や職業について話しているのでしょうか
例えば、毎日長時間労働が続き、帰宅後は疲れ切って会話をする余裕もない。休日であっても仕事の連絡が入り、気持ちが休まらない。そんな状態であれば、子供と向き合う時間も気力も限られてしまいそうです。
反対に、仕事にやりがいを感じ、ある程度の時間的・精神的な余裕を持ちながら働けている場合はどうでしょうか。仕事で経験したことや学んだことを子供に話したり、自分の仕事に誇りを持つ姿を見せたりする機会も増えるかもしれません。
実際、今回の調査でも、仕事の充実度が高い親ほど、家庭で自身の仕事の話をしているという結果になりました。
私たちはつい、「親が子供に与える影響」について考えるとき、家庭の中や個人に目を向けがちです。しかし、親の働き方や仕事との向き合い方は、その人個人の価値観だけで決まるものではありません。親自身も、企業や組織で働いていることが多いでしょうから、その職場環境や企業文化、上司や同僚や取引先との関係、人事制度など、様々な環境の影響を受けているのではないでしょうか。
もちろん、働き方の責任をすべて企業に求めるわけではありません。しかし少なくとも、企業や組織が提供している環境が、従業員本人を通じて家庭へ、そして次世代の子供たちへも影響を与えていることは間違いないでしょう。
人事の“今”の施策は“次世代”につながる
近年、多くの企業で働き方改革や両立支援、多様な働き方への対応が進められています。こうした取り組みは、採用力向上や離職防止、エンゲージメント向上といった観点で語られることが一般的です。
しかし、今回の調査結果を見ながら、もう一つの視点があってもよいのではないかと感じました。それは、企業は従業員のためだけでなく、その先にいる家族にも影響を与えているという視点です。
子供たちは、CMや求人票や企業理念を見るわけではありません。毎日見ているのは、そこで働く親の姿です。
仕事について楽しそうに話す親。困難があっても前向きに取り組む親。家族との時間も大切にしながら働く親。あるいは、仕事に追われ常に余裕を失っている親。
親としては見せたくない姿もあるかもしれません。しかし子供たちは、そうした日々の姿を通じて「働くとはどういうことか」を学んでいるはずです。そう考えると、人事・労務担当者が日々取り組んでいる職場づくりは、目の前の従業員だけを対象としたものではなく、その先にいる子供たち、つまり未来の働き手たちにも間接的な影響を与えているのではないでしょうか。
子供たちは大人を見て育ちます。そして多くの大人は企業や組織で働いています。
であれば、企業が今行っている職場づくりは、未来の採用市場や労働市場を形づくっているのかもしれません。今回の調査は、親の影響力の大きさだけでなく、人事・労務担当者の仕事が思いのほか遠くまでつながっていることも教えてくれたように思います。
●文/古橋孝美(ふるはし たかみ)
2007年、株式会社アイデム入社。メディアソリューション事業本部データリサーチチーム所属。求人広告の営業職として、企業の人事・採用担当者に採用活動の提案を行う。2008年、同社人と仕事研究所に異動し、企業と労働者への実態調査である『パートタイマー白書』の企画・調査・発行を手がける。2012年、新卒採用・就職活動に関する調査プロジェクトを立ち上げ、年間約15本の調査の企画・進行管理を行う。2度の産休・育休を経て復職。子育て施策や女性活躍に関心があり、休職中に独学で保育士資格を取得。現在は、雇用の現状や今後の課題について調査を進めるとともに、Webサイトのコンテンツのライティング、顧客向け法律情報資料などの作成・編集業務も行っている。