近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2026年8月25日)
【解説】
想定外の災害が起こり、結果として人命が失われた場合、「企業がどこまで責任を負うのか?」は難しい問題です。
安全配慮義務違反を認める
本件と同様に津波により教習生らが亡くなったことについて損害賠償が問題となった自動車学校の事件(仙台地裁H27.1.13判決、判時2265号69頁)では、海岸から約750mにある自動車教習所において、消防車が教習所の目の前の県道を往復し、「津波警報が発令されました。坂元中学校に避難して下さい」と避難先まで特定して呼び掛けており、教官らの少なくとも一部は「これを聞いていた」と認定されました。
裁判所は、遅くともこの時点で「津波襲来を具体的に予見できた」とし、また、教習生らは既に送迎バスに乗車するなどしており、速やかに避難させることも「十分可能であった」として、安全配慮義務違反を認めました(その後、高裁で和解が成立しています)。
避難を促す情報が現に届いていたにもかかわらず、通常どおりの送迎をしてしまった点で、被告の責任が認められた事案といえます。なお、この事件では、教官から津波警報の情報を伝えられた学校長が「6m位なら大丈夫。ここまでは来ないだろう」と答えていたことも認定されています。海岸堤防の存在や、過去にこの地域で大きな津波被害がほとんどなかったことなどから、現に届いた避難の呼び掛けよりも「大丈夫だろう」という判断につながったことがうかがわれます。
平時の備えを重ねる
本件の被告会社は、災害対応プランを策定して改正の都度通達で周知し、避難訓練を実施し、避難場所の追加にあたっては県に照会して確認するなど、平時の備えを重ねていたことが認定されています。当日の支店長の判断に合理性が認められた背景には、こうした積み重ねがあったと考えられます。災害対応マニュアルや避難訓練の役割は、まさにこうした実際の現場での「大丈夫だろう」という判断を打ち消し、警報や避難の呼び掛けが届いたら迷わず行動できるようにしておく点にあるといえます。
なお、両判決とも、あくまで当時の行政の被害想定を前提とした判断です。震災後、各地の津波浸水想定やハザードマップは大幅に見直されていますので、これから備えを検討される際、あるいは見直される際には、最新の情報を確認する必要があります。実際に災害が発生した際、対応に困らないように、最新のハザードマップや避難情報の運用、事業所ごとの立地といった実情を踏まえて災害対応マニュアルの作成・見直しを行い、これを管理者や従業員にしっかり周知して、いざというときに機能する状態にしておいていただければと思います。
●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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