第12回「即戦力の壁」
再就職した看護師の事例から、中途入社スタッフの教育について考えます。
せっかく就職しても、3年で辞める人が増えた。よりよい会社に再就職するためだ。しかし、中途入社には即戦力が求められる。そこには「即戦力の壁」があるのを知っているだろうか。強い期待と現実のギャップの「壁」がある。
仕事ができない看護師たち
27歳の看護師、麗子は既婚。1年間、整形外科の外来勤務をしているうちに恋愛し、妊娠したので結婚後、退社した。3年後、近くの小児科で募集があったので応募し、採用された。子供は育てているので、小児科ならなんとかできそうだ。そう思って、今までとは違う診療科目でもできると思って入社した。
しかし、2カ月間たっても、なかなか仕事を覚えられないので、先輩から「まだ覚えられないの。なんてばかなの」といじめられるようになった。やがて、少ないスタッフ全員からの冷たい態度にやる気がなくなっていった。転職しても同じだから、我慢するしかないと思った。だが、我慢が育児疲労と重なり、うつ状態に発展した。夜も眠れなくなり、精神科に患者として通院することになった。
38歳の看護師、実由は独身で彼氏と同棲している。OLをしていたときに手に職をと思い、一念発起して看護師の資格を取得。精神科の外来で3年間勤務した。まじめに仕事をしていたが資格を活かして、精神科の病棟勤務に転職した。同じ精神科なので、できそうだと思ったのだ。
ところが1カ月たっても慣れない。職場では「ダメな人」というレッテルを貼られた。なかなか仕事を覚えられないので、職場に行きづらくなり、適当な体調不良を理由に休みがちになった。同棲している彼氏が無職なので、早く現場復帰しなければならないというプレッシャーもあった。それもあって、重いうつ状態になった。
何が問題なのか?
<採用する側の事情>
中途採用するのは、即戦力になる人材が不足しているからだ。すぐに第一線で働いてくれる人材が欲しいのだ。
採用する側の体制によるが、即戦力というのは、入社1〜2カ月ほどで既存スタッフと同じように仕事ができることを指すようだ。現場では、さまざまな仕事の流れを理解し、なるべく早く他の人と同じようにできるようになってほしい。いつまでも、先導指導者がついているわけにはいかないのが実情なのだ。
即戦力にならないと、指導する先輩の責任にもなりかねない。うまく自立できないと、その先輩が精神的に疲労しないとも限らない。
<採用される側の事情>
看護師資格があれば、ある程度報酬も高い。離職した人でも「また看護師に戻ろう」と考えるだろう。だが、専門職に就いていた人間でもブランクがあれば、すぐに現場復帰するのは難しい。
看護師の場合、やる気はあっても勤務する診療科目によっては、一から学ばなければならない。専門書を読んで、すぐに理解し、現場で仕事ができるレベルになるのはかなり大変なことだ。現場を離れると能力が確実に薄れていく。しかし、本人は一度資格をとってしまうと、「自分にはできるもの」と思い込んでしまうのだ。
例えば、出産で離職した人が再就職するとき、出産前とは違い、子供の世話や家事が増している。仕事と家庭の両立は、本人の想像以上に負担がかかる。特に、今回のケースのようにそれまでとは違う職場に再就職して家庭と両立するのは、かなり精神的な負担がかかる。
※次ページ以降の閲覧には、会員登録(無料)が必要です
●河田俊男
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
この記事のキーワード
クリックすることで関連する記事・データを一覧で表示することができます。
一覧ページへ戻る
その他のコラム記事を見る