頭では「謝らなきゃ」と分かっている。でも、足がすくんで動けない。そんな経験はありませんか?
実は私、謝罪がとても苦手です。サラリーマン時代は営業でミスの連続。取引先に謝りに行かなければならない場面が多々ありましたが、どうしても行動に起こせないことがありました。周りからは「プライドが高いんだ」と言われましたが、自分の中ではそういうわけではないのです。
謝れない本当の理由は「自分の価値を全否定されるような気がする」という恐怖心です。「ミスを認めること=自分がダメな人間だということ」を証明してしまう…そんな感覚が、謝罪の言葉を飲み込ませてしまうのです。
「ミスをした自分」と「謝る自分」を分ける
転機は、ある日、事務職の同僚のミスを私が代わりに謝りに行ったときのことです。驚いたことに、そのときの謝罪はいつもより格段に楽だったのです。なぜ楽だったのか、考えてみました。自分のミスではないという気楽さもあるでしょう。
でも、一番大きかったのは「自己犠牲」の気持ちがあったこと。誰かのために頭を下げている、誰かの役に立っているという感覚が、精神的な緊張をゆるめてくれたのです。このとき、ふと思いました。「これ、自分を2つに分けたら、いつも再現できるんじゃないか?」と。
そこから生まれたのが「セルフアクト」です。方法はいたってシンプル。「ミスをした自分」と「謝る自分」を、頭の中で切り離すだけです。難しく聞こえますが、これは日常でも自然にやっていることです。自問自答のとき、「質問する自分」と「答える自分」に自然と分かれていますよね? あれと同じ感覚です。具体的には、謝りに行く前に心の中でこう思うのです。「ミスをした同じ職場の桑山君(自分)のために、私が謝ってあげよう」。たったこれだけで、心の負担がぐっと軽くなります。
【NG例】苦しい謝罪の思考経路
「この度は(私の)手配間違いにより、御社に多大なるご迷惑をおかけして、誠に申し訳なく思っております。(私のミスで)私にできることがございましたら、なんなりとお申し付けください」
⇒「私が失敗した」という事実を抱えたまま謝るので、防衛本能が働き、言葉に詰まりやすくなります
【OK例】セルフアクト謝罪の思考経路
「この度は(桑山君の)手配間違いにより、御社に多大なるご迷惑をおかけして、(同じ部署の私としては)誠に申し訳なく思っております。(桑山君のミスで)私にできることがございましたら、なんなりとお申し付けください」
⇒「自分のために謝る」のではなく「誰かを助けるために謝る」にシフトするだけで、言葉が自然に出やすくなります
セルフアクトの「おまけ」効果
そんな謝り方は不謹慎だろう、もっと真摯に謝罪すべきだ。そんな声も聞こえてきそうです。でも、これは逆なんです。実は謝罪して怒られているときは、その逆風が強ければ強いほど、本質からは離れていきがちです。「めっちゃ怒ってるなぁ」「全然怒りがおさまらないなぁ」「どうすれば怒りがおさまるのだろう」そんな風に思考しがちです。ミスを連発している私だから、これは自信をもって言えます(笑)。
つまり、これ、「なぜミスが起きてしまったのか?」「どうすれば再発防止できるのか?」という本質ではなく、「どうすれば相手の怒りが治まるのか?」という方向にズレていることにお気づきでしょうか。
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●文/桑山元(くわやま げん)
研修講師・お笑い芸人・俳優。早稲田大学教育学部を卒業後、大手損保会社に入社。新入社員代表として答辞を務める。入社2年目に資産運用担当者として1,000億円を運用。その後、メインバンク本店担当部署で法人営業を経験。同社を退社後、声優養成所を経て、時事ネタを得意とするコントグループ「ザ・ニュースペーパー」に19年間所属。2022年に退団し、芸人と研修講師の二刀流で活動スタート。会社員時代に培ったビジネススキル、お笑い芸人として磨いたコミュニケーションスキルとアドリブ力などを武器に、企業や自治体などで数多くの研修を実施。メディア出演・掲載実績多数。著書に『すぐ使える!おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』(日本実業出版社)。キャリアコンサルタント(国家資格)、損保代理店資格(特級・一般)、ニュース時事能力検定(準2級)。