「推し活」とは、自分の好きなアイドルやキャラクターなどを、さまざまな形で応援する活動のことだ。推しが出演するライブやイベントに参加したり、関連グッズを買ったりすることなどで、若者を中心に社会現象化している。「推し活」で新しい友人ができたり、日常生活が充実したりする一方、問題も起きている。活動にのめり込み、借金をしたり、闇バイトに手を出してしまったりする人がいるという。
好きなメンバーができた
30歳の亮は思春期の頃からアイドルが好きで、気がついたら「推し活」をしていた。きっかけは、ある女性アイドルグループが好きな友人の付き合いでライブに行くうちに、そのグループで好きなメンバーができたことだ。彼女たちのCDを買うと、イベントでメンバーと握手できるという特典が付いていた。イベントで目の当たりにした彼女は想像以上にかわいらしく、心臓が飛び出るほど興奮した。
それ以来、そのときの興奮が忘れられず、握手会のイベントには必ず行った。「推し活」のためにラーメン屋や牛丼屋でアルバイトをし、給料は活動で消えた。やがて、新たなアイドルグループを見つけ、「推し活」にのめり込んでいった。仕事選びも「推し活」が優先で、活動に支障を来さないものにしていた。地方公演にもついて行くので、休みをとりやすいところでなければならない。仕事に対しては真面目だったが、よく休むので辞めざるを得ないこともあった。
「推し活」に浸る日々
亮はコンサートを見終わると会場の外で出待ちをして、推しのメンバーに握手をしてもらった。そのとき、彼は会社を休んで「本当によかった」と思った。やがて、推しのアイドルに顔を覚えてもらえるようになったが、「推し活」の資金が底をつきはじめ、金融機関から借金をするようになった。そして借金の利息を返すために借金をするようになり、雪だるま式に借金は増えていった。
そんなとき、辞めさせられることはないと思い込んでいた勤務先から解雇された。早く仕事を見つけないと、経済的に困窮してしまう。亮は生活が立ち行かなくなるほど、「推し活」にはまってしまった。
依存症と有名人崇拝
趣味としてアイドルの「推し活」をしている人はたくさんいる。しかし、「推し活」にのめり込みすぎて、しょっちゅう仕事を休んだり、借金をしたりするのは問題だ。そうした亮の行動は、依存症の可能性が考えられる。
<依存症の症状>
(1)対象への強烈な欲求
(2)禁断症状がある
(3)依存対象に接する頻度が増えていく
(4)欲求をコントロールできない
(5)依存のために仕事を制限する
特定の人物に極端に執着し、投資する行為を有名人崇拝という。ある研究によると、社会不安のレベルが高いほど、芸能人やインフルエンサーを過剰に崇拝する傾向があるとされている。米デブリー大学のリン・マカチェオン博士らの研究では、芸能人崇拝が原因でうつ病や心身不安などの精神疾患になる人もいるという。また、その中にはストーカーになったり、自傷行為をしたり、崇拝する芸能人のために他人を攻撃したりする可能性もある。
ハンガリーのパズマニー・ペーテルカトリック大学で行われた研究によれば、熱狂的なファンを超えて夢中になると、日常生活や仕事に集中できなくなり、認知機能が低下するという。亮が「推し活」に熱中しすぎて会社を休むようになったのは、認知機能の低下によるものかもしれない。
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●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。