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判例に学ぶ労使トラブルの処方箋/岡正俊

その処分は妥当? 諭旨解雇と懲戒解雇の違い〜N社事件(東京地判R2.2.19、労判1226号72頁)〜

近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2026年5月26日)

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【事案の概要】
 本件は、精密測定機器の製造販売を行っている会社(被告)の従業員(原告)が諭旨解雇とされ、これに応じなかったため懲戒解雇、さらに予備的に普通解雇とされた事案です。原告は、いずれも無効として地位確認等を求めました。





 原告は入社以来、複数の配属先でトラブルを繰り返し、会社はその都度、注意指導や配置転換による対応を行ってきました。平成29年4月、部署内のレイアウト変更に反発し、上司に対して配置変更によって精神疾患を誘発した責任を取るようメールを送ったりしました。さらに、職場離脱を業務扱いとするよう求めて断られると、カッターの刃を持ち出して上司の面前で自らの手首を切るそぶりに及び、警察官が臨場する事態となりました。

 被告は、原告を諭旨解雇とし、退職願の提出を勧告しましたが、原告が応じなかったため懲戒解雇としました。さらに後日、予備的に普通解雇しました。


【裁判所の判断】
 裁判所はまず、就業規則上、諭旨解雇は退職願の提出を勧告するものではあるが、勧告に従わなかった場合には懲戒解雇とするものであるから「懲戒権の濫用に当たるか否か?」の判断に当たっては、懲戒解雇と同様の規律が及ぶとしました。

 裁判所は、レイアウト変更を巡る原告の一連の言動について、被害妄想的な受け止め方に基づき身勝手かつ常軌を逸した言動を執拗に繰り返したものであり、カッターの刃を持ち出した行為は対応次第では自傷他害の結果も生じかねない危険な行為であるとしました。そして、周囲の職員に与えた衝撃と恐怖感は大きかったと認定し、懲戒事由該当性を肯定しました。

 また、その態様の悪質性や、それ以前にも種々の問題行動を繰り返していたことからすれば相当に重い処分が妥当するとしつつ、傷害結果が発生しなかったこと、懲戒処分歴がなかったこと等、斟酌すべき事情も認められるとしました。その上で、原告を直ちに諭旨解雇とすることはやや重きに失するとし、「諭旨解雇及び懲戒解雇は無効」と判断しました。

 他方で、裁判所は原告が入社以来複数の部署でトラブルを繰り返し、最終的にカッターの刃を持ち出す事件にまで至った経緯からすれば、職場秩序を著しく乱した原告を「職場に置いておくことはできない」と考えるのは当然としました。会社が再起の機会を与えてきたことからすれば、もはや改善の余地がないと考えるのは妥当として、「普通解雇は有効」と判断しました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/
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