人事の仕事(採用・定着・育成など)は、「会社のお金をどう使うか?」を考えることでもあります。人事に求められる会社のお金に関する知識や考え方を解説します。(2026年7月7日)
一律賃上げは「不満」を生む
前回までで、賃上げの原資をどう生み出すか、採用コストをどう見直すかという「財源」の話をお伝えしました。今回はその先のステップ、生み出した原資を「誰に・いくら配分するか?」という設計の話です。
賃上げに取り組む企業の多くが、まず選ぶのが「全員一律〇円アップ」という方法です。決め方がシンプルで説明しやすく、一見公平に見えます。しかし実際には、一律賃上げは思わぬ不満を生むことがあります。
高いパフォーマンスを発揮している社員からすれば、「なぜ自分と同じ仕事をしていない人と同額なのか?」という不満が生まれます。逆に貢献度が低い社員でも同額が支給されるとなれば、頑張ることへのインセンティブが失われます。賃上げそのものより、「配り方の不公平感」がモチベーションを下げるという皮肉な結果になりかねないのです。
限られた原資を最大限に活かすためには、「誰に・いくら」を意図的に設計することが不可欠です。
賃金配分を設計する2つの軸
賃金配分を考えるとき、基本となる軸が2つあります。「職務・役割」と「成果・貢献度」です。
職務・役割の軸とは、「その仕事がどれだけの価値を持つか?」によって賃金水準を決める考え方です。同じ勤続年数であっても、担う責任の重さや求められるスキルが異なれば、賃金に差がつくのは合理的だという発想です。欧米では広く普及しており、日本でも近年「職務給(ジョブ型)」として注目されています。
成果・貢献度の軸とは、「実際にどれだけ会社に貢献したか?」によって賃金や賞与に差をつける考え方です。売上目標の達成率、新規顧客の獲得数、業務改善への取り組みといった具体的な指標と連動させることで、努力と報酬の結びつきを明確にします。
中小企業においては、どちらか一方に偏るのではなく、2つの軸を組み合わせた設計が現実的です。基本給は職務・役割に応じて設定し、賞与や手当で成果・貢献度を反映させるという組み合わせが、導入のしやすさと納得感のバランスが取れた方法です。
「等級制度」がなくても、配分設計はできる
納得感のある賃金配分と聞くと、「人事評価制度や等級制度をきちんと整備しなければ」と身構える方もいるかもしれません。しかし、精緻な制度がなくても、配分設計の考え方を導入することは可能です。
まず取り組みやすいのが、社員を3〜4つのグループに分類する方法です。たとえば「中核人材(マネジメント層や高度専門職)」「中堅人材(一人前として自律して動ける層)」「育成人材(経験を積んでいる段階)」といった区分けです。厳密な職務定義がなくても、経営者と人事が対話しながら社員を分類し、各グループに異なる賃上げ額を設定するだけで、配分設計の第一歩になります。
例えば、賃上げ原資が月額30万円あるとします。社員20人を3つのグループに分け、中核人材5人には月2万円、中堅人材10人には月1万5,000円、育成人材5人には月1万円を配分すると、合計は「5×2万+10×1.5万+5×1万=10万+15万+5万=30万円」となり、原資にぴったり収まります。一律配分なら全員に月1万5,000円ですが、傾斜配分にすることで、中核人材への還元を厚くできます。
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●文/小橋一輝(こばし かずき)
株式会社Elavis代表取締役、財務・金融コンサルタント、銀行取引アドバイザー
大学卒業後、地方銀行に入行。融資渉外担当として、多種多様な企業の創業から事業承継までのさまざまなステージをサポート。2019年に独立し、元銀行員としての豊富な経験を活かし、企業の資金調達や銀行取引の健全化などを支援。これまでに500社以上の企業、延べ1,000人以上の経営者・起業家・開業医を支援し、財務戦略の最適化をサポート。セミナー登壇・企業研修の実績多数。