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ココロの座標/河田俊男

第125回「コロナワクチン開発の礎を築いた不屈の研究者」

人の心が引き起こすさまざまなトラブルを取り上げ、その背景や解決方法、予防策などを探ります。(2026年9月1日)

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 新型コロナワクチン(mRNAワクチン)の開発に道を開いた研究者を知っているだろうか。ハンガリー出身の生化学者カタリン・カリコ氏と、アメリカの生物学者ドリュー・ワイスマン氏で、2人は2023年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。受賞後に特に話題になったのが、カリコ氏のキャリアだ。彼女はさまざまな困難にあいながらも自らの信念に基づいて研究を続け、それが多くの人々を救うことになった。今回は彼女の生き方を通して、これからの時代を生きるヒントを学びたい。





生まれた国を離れる

 カタリン・カリコ氏は1955年、ハンガリーで生まれた。子供の頃から生物に関心があり、大学で生物学科に進んだ。卒業後はハンガリー科学アカデミー付属のセゲド生化学研究所に入り、後に新型コロナウイルスに対するワクチン技術に応用されるmRNA(メッセンジャーRNA)の果たす役割の重要性に気づき、関心を持つようになった。

 しかし、カリコ氏が30歳のころ、ハンガリー政府から予算が出なくなり、研究ができなくなった。そこでアメリカのテンプル大学に求職の手紙を出すと、大学から「博士研究員」として受け入れるという返事がきた。渡米の際、生活資金として車を売って得た現金を2歳の娘が持っていたテディベアに隠してアメリカに向かったという。1985年当時、社会主義国のハンガリーでは、国外に持ち出せる現金が制限されていたのだ。

 アメリカでは、テンプル大学の後、連邦政府が運営する医科大学を経て、1989年にペンシルベニア大学で研究職に就いた。だが、あてにしていた研究の助成金が出なくなったり、嫉妬によって上司から退職を迫られたりするなど、さまざまな困難に見舞われた。その当時、カリコ氏の研究するmRNAは、あまり関心をもたれていなかった。また、1997年にはカリコ氏の研究チームが研究費不足で解体した。


論文発表から16年

 チームが解体したとき、生物学者のドリュー・ワイスマン氏がペンシルベニア大学に移ってきた。カリコ氏は偶然、コピー機の前で会ったワイスマン氏に自分の研究について熱く語った。それがきっかけで2人は一緒に研究することになった。2005年、両氏はコロナワクチン誕生に大きな役割を果たすmRNAに関する論文を発表した。

 しかし、2010年にmRNAの関連特許を大学が企業に売却してしまったため、カリコ氏の研究は事実上、頓挫してしまった。そんなとき、カリコ氏の講演に来ていたドイツの製薬会社ビオンテックの創業者ウグル・サヒン氏に研究を評価され、同社の副社長としてドイツで研究を続けられることになった。

 そして2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)に伴い、ビオンテックは以前から共同研究していた米大手製薬会社ファイザーと新型コロナワクチン開発の契約を結び、同年の11月には臨床試験の最終段階をクリア。翌2021年、カリコ氏は、ワイスマン氏と一緒にペンシルベニア大学でワクチンを接種することになった。それは彼女がいつかは必ず成功すると、自分を信じていた結果だった。カリコ氏がワイスマン氏と共同研究の論文を発表してから16年の歳月が流れていた。


好奇心と自分を信じること

 カリコ氏は子供の頃から生物にひかれ、「生物の中がどうなっているのか?」と興味を持っていた。それが生物の最小単位の細胞やDNA、そしてmRNAの研究につながった。彼女は、自分の好奇心を大切に育ててきたのだ。

 研究者自身の好奇心や知的関心を出発点として、実用的な目的や短期的な成果を前提とせずに進める基礎的・探索的な研究スタイルを好奇心駆動型研究という。「なぜだろう?」「どうなっているのか?」などという知的好奇心で研究をすすめていくことが、発見につながっていくというものだ。イスラエル科学財団のダニエル・ザイフマン博士は「好奇心の役割は“未知の未知”、つまりそれを知らないことすら知らなかったような発見をすることだ」と語っている。

 アメリカの社会学者、ロバート・K・マートンは「予言の自己成就」という概念を提唱している。「自分は成功できる」と信じきることで、無意識のうちに人と出会い、チャンスをつかみ、成功を手にするというものだ。新型コロナワクチンは、カリコ氏の強い気持ちがなければ、誕生しなかったと言える。
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●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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