令和6年(2024年)の労働力人口において、65歳以上の割合は13.6%に達したと言われています。65〜69歳では54.9%、70〜74歳でも35.6%が就業を続けており、日本の職場にはシニア層が自然に混在する“混齢職場”が広がっているように感じます。特に中小企業では人材構成の変化に余裕を持った対応が難しいため、高齢期の働き方を「どう設計するか?」は避けられないテーマとなりつつあるのではないでしょうか。
ただ、転職市場を眺めていると、“高齢者向け求人”が体力仕事に偏っているように見える瞬間があります。本来は多様な経験と判断力を持っているはずのシニア層が、「体を使う仕事」に限られてしまっているような印象を受けることもあり、どこかアンバランスさを感じます。実際、清掃や警備など、比較的労働集約性の高い領域で高齢就業者が多いという指摘も聞かれます。
しかし、高齢期においても比較的保たれやすいと言われる「結晶性知能」(語彙、社会経験に根ざした判断、対人調整など)は、組織において非常に価値が高いと感じます。
こうした経験知を“役割”としてうまく活かせれば、体力に依存した仕事だけでなく、知的・判断的な領域でも活躍の幅が広がり得るのではないか──そんな仮説から、本稿ではシニア層の強みを「頭・心・体」で整理しつつ、その力をより活かしやすくする方法のひとつとして「リバースメンタリング※」を取り上げて考えてみます。
※若手社員が先輩やベテランのメンターになり、助言や指導を行う教育支援制度のこと。本来の立場を逆転させることで、組織に新しい視点を取り入れられる施策として注目されている
◆シニア層の「頭・心・体」をあらためて整理してみる
【頭】経験を統合する力と、新しい情報の扱い方の違い
研究では、語彙力や判断力といった結晶性知能は60代〜70代でも維持されやすいと言われています。これは、長い人生経験の中で蓄積される知識の統合力や、対人調整の感覚が高齢期に成熟しやすいという見方が関係しているのではないかと思います。
一方で、新しい情報を素早く処理したり、初見の課題に取り組むための“流動性知能”は、若年層のほうが優位だという指摘もあります。
これによって、「経験知・判断・言語化→シニアの強み」「スピード・新規学習→若手の強み」という補完関係が自然に生まれるのだと感じます。これを“世代の差”とするのではなく、“組み合わせれば強くなる差”と捉えるほうが、組織にとっては前向きではないでしょうか。
【心】感情の安定と価値観の更新速度
高齢期にかけて感情が安定し、落ち着いた判断がしやすくなるという説があります。これは長年の経験から、過剰なこだわりや早急な判断を避け、状況を広く見渡せる力が育つためかもしれません。
ただし、新しい価値観に触れたときの“初速”は、若い世代のほうが速いようにも感じます。環境変化が激しい状況では、この“更新速度の差”がギャップにつながることもあり得ます。つまり、「安定を生みやすいシニア」「変化の芽を持つ若手」の2つをどう混ぜるかが組織力の源泉になるのでは、と思います。
【体】身体機能の変化と役割設計
反応速度やバランス能力は加齢とともに低下しやすく、努力だけでは補いにくい領域です。特に中小企業では、個々の状況に合わせた業務再設計が難しいことも多く、安全面の課題が起きやすい場面もあるように思います。そのため、シニア層の身体的変化を前提とした役割や制度の工夫が求められるのではないでしょうか。
●文/岸川宏(きしかわ ひろし)
株式会社アイデム メディアソリューション事業本部 マネージャー(キャリア開発支援チーム/データリサーチチーム)、社会保険労務士
大学卒業後、リゾート開発関連会社へ入社。飲食店部門での店舗運営を経験後、社会保険労務士資格を取得。社会保険労務士事務所にて、主に中堅・小規模企業の労務相談、社会保険関連手続きに従事した。1999年、株式会社アイデムに入社。賃金データの調査分析、労使関係に関する意識調査等、労働環境の実態に迫る情報提供に従事。採用時だけではなく、採用後の人材の定着、育成、戦力化と、人的戦力確保のための環境づくりに資する総合的な情報の提供に努めている。