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近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2022年9月27日)
【事案の概要】
被告(上告人)はニュースの提供を主たる業務目的とする通信社で、原告(被上告人)は同社の社会部の記者です。社会部は2つに分かれており、原告が所属する第1編集局には41人が所属していました。原告は、科学技術に関する職務を担当しており、相当の専門知識、経験を持っていました。
原告は、40日の有給休暇を持っていたので、昭和55年6月23日、部長に対して8月20日ごろから約1カ月間有給休暇をとって「欧州の原子力発電問題を取材したい」と申し入れました。そして6月30日、部長に8月20日から9月20日まで(うち有給休暇日数は24日)の休暇等届を提出しました。部長は「2週間ずつ2回に分けて休暇を取ってほしい」と回答し、8月20日から9月3日までの休暇を認め、9月4日から20日までの期間については業務の正常な運営を妨げるとして時季変更権を行使しました。
しかし、原告はこれを無視し、8月22日から9月20日まで取材旅行に行ってしまいました。そのため、被告は原告の行動が「懲戒事由に該当する」として原告をけん責処分としました。原告はこれを不服として、慰謝料等の損害賠償を求め、本件訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
原審の高裁は、被告の時季変更権を違法としましたが、最高裁は適法と判断しました。最高裁は、労基法39条の趣旨として、できる限り労働者が指定した時季に休暇を取得することができるよう配慮することを要請しているとし、そのような配慮をせずに時季変更権を行使することはその趣旨に反すると述べました。その上で、配慮をしたとしても代替勤務者を確保することが困難である等の客観的事情があり、指定された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げると認められる場合には、使用者の時季変更権の行使が適法になるとしました。
そして、労働者が長期・連続の有給休暇を取得しようとする場合は、事業の正常な運営に支障を来す蓋然性※が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生じると指摘しました。
※ある事象が現実に起こるかどうか、またはある事柄が真実かどうかの度合い
さらに使用者にとっては、さまざまな事情を正確に予測することは困難であること等を考えると、労働者が調整を経ることなく長期・連続の有給休暇をとろうとした場合、使用者に「ある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない」としました。ただし、使用者の裁量的判断は労基法の趣旨に沿う合理的なものでなければならず、状況に応じた配慮を欠くなど、不合理であるときは違法になるとしました。
本件については、原告の担当職務が専門的で代替者確保が困難であること、人員配置が不適正とはいえないこと、原告の休暇が長期・連続したもので十分な調整を経ていないこと、業務に支障を来す旨部長が説明し、分割での取得を提案した上で後半の休みについて時季変更権を行使しており、相当配慮していることなどから適法としました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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