「さすが○○出身だけのことはある」という誇り
この「ヒトがあつまる職場」の連載では、ヒトは金銭的報酬だけで就職先を考えているのではなく、意味的な報酬を重視するという観点から話を進めています。
意味的報酬には、いろんなものがあります。先月の第1回は「自分のアイデアが形になること」でしたね。今回は、特定の職場で働くことで得られる「プライド」について、考えていきましょう。
私は企業研修の講師を仕事にしていますが、集合研修やオンライン研修では、研修の企画会社がアテンドする運営アシスタントの方にお世話になっています。アシスタントの仕事は、集合研修では教材や備品、紙資料を配布・回収するのが主な業務、オンライン研修では、受講者をグループごとに小教室ともいえるブレイクアウトルームなどに移動させたり、チャットでデータを送ったりするのが業務になります。
時間管理も含めて、研修がうまく運営できるように進行のコントロールを手伝ってもらうことも少なくありません。補助的な仕事と見なされがちですが、私にとっては、アシスタントというより、講師と一緒に研修という場を作り上げていくパートナーとしての存在という感じです。
アシスタントの方たちの前職はさまざまなのですが、比較的多いのがキャビンアテンダント(CA)経験のある方だったりします(とくに日本を代表する2つの航空会社)。出産を機にリタイアし、子育てがひと段落したタイミングで、研修のアシスタントに復職したというケースです。
CA経験の方が研修アシスタントに向いていると思うのは、ビジネスマナーが完璧なのはもちろんのこと、先を読む力や場が何を必要としているかを考える力(感じる力や想像力と言い換えてもいいでしょう)が長けているところです。また、研修の場での挨拶や立ち居振る舞いが全体の空気感を作るわけですが、場を和ませ、明るくする「柔らかい空気」作りも得意だったりします。
研修というのはライブなものであり、生ものです。毎回、受講者との化学反応が起きて、思わぬ方向に進むことがあります。プログラムの一部を変えてでも、研修の目的である最終ゴールを目指すことが常に起きるのです。つまり、想定外の事態に臨機応変に対処する力も必要になります。これもCA経験が生きてきたりします。
私は「さすがキャビンアテンダントを経験しただけのことはある」と心の中でいつも思っているわけですが、ここにもヒトが集まる職場のヒントがあります。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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