<このコラムのポイント>
◆退職代行サービス利用者の実態
◆退職者のホンネ
◆なぜ、若者の利用が多いのか
◆退職代行サービス利用者増加が示すサイン
◆退職代行サービスへの対応は?
ある日突然、それはやってきます。
「御社に勤務されている○○様の退職についてご連絡させていただきました」
「○○様からのご依頼で、退職のご意向と今後出勤できない旨をご連絡させていただきます」
「○○様とは今後、直接のやり取りはご遠慮をお願いいたします」
それは退職代行事業者からの連絡です。最近、退職代行事業者を利用した退職が増えていると聞きます。「退職代行」とは、退職したい本人に代わり、退職意向を会社に伝え、その後の手続きに関することを請け負うサービスのこと。連絡を受けた企業としては「え?」「ホントに?」「今日から来ない??」「引継ぎどうする」等々。戸惑うことも多いかもしれません。
読者の中には、退職代行事業者の連絡によって退職者が出たという経験をされたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
御社は「退職代行」を利用しないと辞めることができない会社でしょうか?
確かに以前は「なかなか辞めさせてもらえない」「辞めたいなら代わりの人を連れてこい」「怖くて言い出せない」というような企業から“抜け出す”ために、退職代行を利用するということが多く見られたようです。
でも、わが社は「辞めさせない」なんてことはしていないし、労働条件は飛び抜けて良いとは言えないかもしれないが、「ブラック」といわれるような違法なこともしていない……。そう、思われるのではないでしょうか。私の知人の会社でも、毎月のように退職代行を利用するケースがあるとのことです。私が知る限り、その会社も一定以上の規模の会社で上場もされていますし、コンプライアンスは意識されている会社だと認識しています。
◆退職代行サービス利用者の実態
日本労働産業ユニオンの調査によれば、同組合が運営している退職代行サービスの利用者で断トツに多いのは20代(約60% 2951人/4963人)で、勤続年数は約半数が1年以内との結果でした。退職代行サービスの利用者は勤続年数の浅い若手が中心のようです。
では、「なぜ」勤続年数の浅い若手が「退職代行サービス」を使って辞めていくのでしょうか。別の調査(エン・ジャパン株式会社、7700人に聞いた「退職代行」実態調査 ―『エン転職』ユーザーアンケート―)によれば、利用した理由1位は「退職を言い出しにくかったから」で回答者全体では50%。年代別の利用理由でも57%と最も高くなっています。「退職を認めてもらえなかったから」という理由は全体で27%と、1位の理由と比べるとそれほど高くはなっていませんでした。
昨今では、「辞められないから」ではなく「辞めることを伝えるのに気が引けるから」が退職代行サービスを利用する理由なのでしょうか。
●文/岸川宏(きしかわ ひろし)
株式会社アイデム 東日本事業本部 マネージャー(キャリア開発支援チーム/データリサーチチーム)、社会保険労務士
大学卒業後、リゾート開発関連会社へ入社。飲食店部門での店舗運営を経験後、社会保険労務士資格を取得。社会保険労務士事務所にて、主に中堅・小規模企業の労務相談、社会保険関連手続きに従事した。1999年、株式会社アイデムに入社。賃金データの調査分析、労使関係に関する意識調査等、労働環境の実態に迫る情報提供に従事。採用時だけではなく、採用後の人材の定着、育成、戦力化と、人的戦力確保のための環境づくりに資する総合的な情報の提供に努めている。