マイクロマネジメントとは、上司が部下の行動を細かく管理することをいう。度が過ぎた干渉は、部下をうつ病や心身症にする危険性があり、場合によっては職場いじめやハラスメント問題にもなりかねない。
人事部から注意を受ける
42歳の卓也は大手建築会社に勤務しているが、現在は休職している。薬物依存症になり、精神科で治療を受けているのだ。有名国立大学出身で優秀だが、プライドも高い。部下からの評価は最悪で、人事部から何度も注意や指導を受けていた。部下への指示があまりにも細かく、強迫的な管理をするからだ。いわゆるマイクロマネジメントをしていたのだ。部下は次々にうつ状態や心身症になり、メンタルヘルスの問題を抱えることになった。
卓也は完璧主義で、なんでも自分でやらなければ気がすまないタイプだった。そんな性格が災いして、人事部から注意を受けた。自分の指示を振り返り、部下に「過剰な負担をかけていないか」を考えるように、というものだった。その後、マイクロマネジメントは少なくなったが、注意をされたことで自尊心が傷ついた。夜中に怒りがこみ上げてきて眠れなくなり、酒を浴びるように飲んだ。やがて薬物にも手を出すようになり、その影響で出社できなくなる日もあった。
Z世代の部下
卓也は部下を細かく管理していた。例えば、部下に仕事の進捗状況を日々報告するように指示するばかりでなく、得意先とのメールのやりとりについても逐一報告させていた。マイクロマネジメントをしていた理由は、Z世代の部下が多かったことだ。彼らはリスクや責任を回避することを優先し、積極的に行動したり、1人で考えたりしない傾向がある。そのため、卓也はマイクロマネジメントを行った。
だが、部下たちにしてみれば、卓也の存在はストレスでしかなかった。うつ病になった部下は人事部に、卓也から職場いじめを受けていると訴えた。職場の安全配慮義務違反に問われる事態にもなりかねない。会社としては、卓也を見過ごすわけにはいかない状態になった。
社会的自己の低下
Z世代はストレスに過敏で、ストレスに弱いと言われている。ある調査によると、Z世代の若者たちには「社会的自己の低下」があることが分かった。これは、他人と交流する能力が著しく低下しているということだ。また、彼らの多くがメンタルヘルスの問題を抱えやすいという。「社会的自己の低下」は、彼らを雇用する企業にとって大きな問題だ。彼らとコミュニケーションをとって、仕事を遂行していくことがとても難しいからだ。
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●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。