時折、疲れる親や迷惑な親への対応に苦労している話を聞くことはないだろうか。そんな親の中には毒親がいて、子供の人生を狂わせてしまう。そうした親から逃れて、自分らしい人生や幸福をつかむのは難しい。
上司と不倫関係
32歳の知世は適応障害と診断され、会社を辞めることにした。仕事は営業事務で、正社員として働いていた。以前は衣料品の倉庫でアルバイトをしていたが、将来を考えて正社員に転職した。アルバイトだったときよりも責任が重く、夢中で働いた。熱心な仕事ぶりは上司に褒められ、食事に誘われるようになった。
やがて、知世は上司と不倫関係になったが、ある日、そのことが職場の人たちにバレた。そして、陰で同僚たちが不倫のことを面白おかしく話していることを知り、メンタルに支障をきたすようになった。
母親からお金を無心
上司との不倫関係は、彼女にとって心の救いだった。家にいる母親とは、なるべく関わりたくなかった。知世が子供のころに母親は離婚した。母親は知世を連れて実家に戻ると、パチンコやパチスロなどのギャンブルをするようになった。そして、知世が成長して仕事をするようになるとお金をせびるようになった。
知世は給料が入ると家賃や食費などの生活費を家に入れるが、母親に「産んで、育ててもらった恩があるだろう、もっと出せ!」と怒鳴られた。母親からお金を無心されるたびに彼女はお金を渡すので、そのために借金までするようになった。だから、彼女はいつも経済的に苦しく、昼食も抜くぐらいだった。彼女は何度も今の生活から逃げようとしたが、家を出られないでいた。
自分の感情を伝えられない
知世のように毒親のもとで不適切な養育をされ続けていると、人間関係に苦労する。知世の母親は病的に自己中心的で、まったく人の意見を聞かなかった。娘の感情や考え方などはまったく受け入れず、自分の思うようにコントロールしようとしていた。そのせいで、彼女は子供のころから無気力になり、自分から話すこともなくなった。
知世は成長すると、自分の感情を人にどう伝えればいいのか、分からなくなった。上司と不倫関係になってしまった要因の1つも、自分の気持ちをうまく伝えられなかったことにあると言える。上司は、そうした彼女のコミュニケーション能力の低さを利用したのだ。彼女が不倫問題で会社を辞めると、上司からはメールもなくなった。
人間関係を作ることができない
知世は、人間関係を作ることが苦手だった。子供のころから両親間のDVを見て育った被虐待児でもあり、その影響で自分の気持ちを相手に伝えることができず、他人の気持ちをくむこともできなかった。彼女にとって、職場の人間関係は苦痛でしかなかった。子供のころから母親に批判され、否定され続けたために、彼女は人の意見を批判的・否定的に捉え、素直に会話ができない。
知世は人と会話をすると、相手に「どう思われるか?」ということばかり考えてしまう。また、常に過剰適応しているので突然、すべてが嫌になってしまう。まるで、足元に急に深い谷が現れるように、その先に進めなくなるのだ。そうなると、今までの仕事や人間関係、生活をすべて投げ出してしまいたくなる。今回も、上司との不倫関係や職場での人間関係が負担になり、精神的に追い込まれていった。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。