長く同じ仕事を続けてきた人は、決まった業務には強い一方で、全く新しい業務になると戸惑うことがあります。自分では「できるはず」と思っていても、実際には進まない。その状況に言い訳が増えると、上司とのすれ違いが起きやすくなります。今回は事務職のベテラン社員に、新しい仕事をお願いすると避けられるケースを通して、上司が「どのように関わればいいのか?」を考えていきます。
■今回の事例
Aさん(50代女性)は社歴30年のベテラン社員です。一貫して事務職を担い、正確さと丁寧さには定評があります。長年の経験から自信もあり、「事務の仕事なら誰よりもできる」という思いも持っています。新しくAさんの上司となったBさん(40代男性)はこれまでの経験を生かして、新たに企画業務もお願いしたいと考えました。
ところが、AさんはBさんから企画に関する仕事の依頼を受けると「ほかの仕事が詰まっていて…」「情報が不足しているので…」などの理由を述べ、なかなか着手しようとしません。Aさんに仕事を引き受けてもらうには、どうしたらよいのでしょうか。
■解説
客観的に見ると、Aさんは「与えられた仕事を正確に処理する力は高いが、自分で生み出す企画的な仕事は苦手」という特性を持っていると考えられます。さらに、「事務職としては優秀である」という自信があるために、苦手な企画の仕事については避けようとしているという心理も背景にあると考えられます。
「できない」とは言えないが、「やれる」とも言えず、仕事を成し遂げる確信が持てない状態にあると言えます。こうした板挟みの状態が、行動の遅れにつながっている部下に対して、上司はどのような対応をしたらよいのでしょうか。
新しい発想力を引き出すための明確な期待と目標設定
Aさんは長年、流れが決まった事務作業を通じて力を発揮してきました。そのため、「決まった形のある仕事」は得意でも、「ゼロからつくる仕事」はどう進めればよいか分からず、不安が強まりやすいと考えられます。また、Aさんのように「決められた仕事は得意だが、企画は苦手」というタイプは、イメージが湧かないと動けません。まずは、依頼内容を具体的に言葉にし、「最初に何を作るのか?」を明確にする必要があります。
ポイントは、目的(何のための企画か)、ゴール(どんな成果物を作るのか)、期限(いつまでに仕上げるのか)、判断基準(何をもって“よい”とするか)をはっきり伝えることが大切です。特にAさんの場合、苦手意識をあいまいにして隠す傾向があるため、はっきりとした伝え方が欠かせません。
また、いきなり完成形を求めず、途中段階を細かく区切るほうがAさんは安心して取り掛かれるでしょう。
●文/山田真由子(やまだ まゆこ)
山田真由子社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント。26歳のときに3度目の受験で社会保険労務士に合格。さまざまな業種にわたり、約15年のOL 生活を経て、2006年12月に独立開業。現在、「誰もが輝く職場づくりをサポートする」をミッションとして活動している。経営者や総務部担当者などから受けた相談件数は延べ10,000件以上、セミナー登壇は1,500回以上を数える。著書に『外国人労働者の雇い方完全マニュアル』(C&R研究所)、『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)、『すぐに使える!はじめて上司の対応ツール』(税務経理協会)。