「今日、何食べたい?」
「なんでもいいよ」
このやり取り、やったことありますよね。または、やられたことありますよね。これ、日本全国で1日に何万回繰り広げられているかと思うと、想像しただけで恐ろしくなります(笑)。
そして、この「なんでもいい」という言葉を真に受けて「じゃあ焼肉で!」と言った瞬間、相手の表情がスーッと曇る。「えー、焼肉ぅ〜?」なんて返ってくる。「あれ、なんでもいいって言ったじゃないか!」と心の中でツッコミながら、ぎこちない夜が始まる…。身に覚えがある方、多いのではないでしょうか?
実はこれ、プライベートでの夕食問題だけじゃなくて、商談や営業、職場での面談などでも同じことが起きています。みなさんも「何かお困りですか?」と投げかけて「大丈夫です」と返されたり、「何かご要望は?」と聞いて「特にないですね」と言われたりしたことがあるのではないでしょうか。これこそ、相手のニーズをまったく引き出せていない状況なのです。
相手の考えを引き出す「相棒メソッド」
突然ですが、みなさんは『相棒』という刑事ドラマをご存じでしょうか。俳優の水谷豊さんが演じる杉下右京という東京大学出身のキャリア警察官が、相棒といっしょに事件を解決していくドラマです。2000年の放送開始以来、高い人気と知名度を誇り、先日シリーズ25周年を迎えて始まった『シーズン24』が最終回を迎えたところです。その杉下右京の特技は「事件の謎を解く」こと…ではなくて、実は「相手に話させること」なんです。
劇中、右京さんは相手に自分の考えを押しつけません。容疑者に「あなたがやったんでしょう!」とは絶対に言わない。その代わり、ひたすら質問をする。「そのとき、どちらにいらっしゃいましたか?」「それは、どのような意味でおっしゃっているんですか?」「なぜそうお感じになったんでしょうか?」と、穏やかに、でも確実に相手の言葉を引き出していく。
これこそ、相手のニーズを引き出しやすくする「相棒メソッド」です。右京さんはペアを組む刑事と相棒なだけでなく、聞き取り調査をする相手とも相棒になって、事件解決に取り組んでいるんですね。
「フリ」で揺さぶりをかける
容疑者に対して、右京さんが使っているのは「オープンクエスチョン」という技術です。「Yes」か「No」で答えられる質問ではなくて、自由な回答ができる質問です。これはコーチングの基本中の基本で、相手の「思考の扉」を開けるための鍵なんだそうです。オープンクエスチョンをもっと有効にする小技として、「フリ」と「エモーショナルリスニング」という手法をご紹介しましょう。
まず「フリ」とは、お笑いでオチに持っていくための伏線のこと。相手のニーズを掘り起こすときには、一度逆の方向に振ると効果的です。
<会話例>
×お客様がのってこない投げかけ
営業担当「御社はDXの活用が、いまいちうまくいってないところにお悩みを抱えているのではないですか?」
お客様「そんなこともないと思いますよ。弊社では…」
〇お客様がのってくる投げかけ
営業担当「御社のDX推進は完璧ですね。かなり生産性が上がったんじゃないですか?」
お客様「いやぁ〜、それがそうでもなくてですね。実は…」
私もそうなのですが、人間って何か意見を言われると反射的に反発したくなりませんか? それがネガティブなことなら、なおさらです。そこで逆方向への「フリ」が効いてきます。
●文/桑山元(くわやま げん)
研修講師・お笑い芸人・俳優。早稲田大学教育学部を卒業後、大手損保会社に入社。新入社員代表として答辞を務める。入社2年目に資産運用担当者として1,000億円を運用。その後、メインバンク本店担当部署で法人営業を経験。同社を退社後、声優養成所を経て、時事ネタを得意とするコントグループ「ザ・ニュースペーパー」に19年間所属。2022年に退団し、芸人と研修講師の二刀流で活動スタート。会社員時代に培ったビジネススキル、お笑い芸人として磨いたコミュニケーションスキルとアドリブ力などを武器に、企業や自治体などで数多くの研修を実施。メディア出演・掲載実績多数。著書に『すぐ使える!おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』(日本実業出版社)。キャリアコンサルタント(国家資格)、損保代理店資格(特級・一般)、ニュース時事能力検定(準2級)。