<自己効力感を脅かさない>
1つ目は、受け手の自己効力感―「自分ならできる」という感覚―を脅かさないことです。
ネガティブなフィードバックは、それ自体が「自分はこれができていなかったのか」という認識を生み、自己効力感を下げる方向に働きやすい性質を持ちます。とくに断定的な指摘の形で行われると「自分そのものを否定された」と受け取られ、行動変容に必要なエネルギーまで奪ってしまうことがあります。
それを防ぐためには、フィードバックを行うときの工夫として、
・できている部分を明確に承認したうえで、できていない部分のフィードバックに進む
・「この場面でのこの行動」というように焦点を絞る
・「次にこの場面が来たらこう試してみよう」と、改善の見通しを共に描く
といったことが挙げられます。これらを意識することで、能力への信頼を残したままフィードバックを伝えられます。
<目的意識とつなげる>
2つ目は、フィードバックを部下自身の目的意識―「自分はこうなりたい、これを実現したい」という自覚―とつなげることです。
同じフィードバックでも、「あなたの欠点の指摘」として受け取られるのと、「あなたがなりたい姿へのアドバイス」として受け取られるのとでは、意味合いがまったく異なります。前者は脅威ですが、後者は自分が成長するためのサポートです。
そのためには、管理職が部下の目的意識を日常の対話の中で把握している必要があります。「将来こうなりたい」「この仕事でこういう力をつけたい」―そうした本人の言葉を聴き取り、フィードバックを伝える際に明示的に結びつけます。
例えば、先述した「丁寧な口調が、かえって部下を遠ざけているかもしれない」というフィードバックも、「あなたが目指している、部下から相談される存在になるうえでは、丁寧さが時に逆効果になることがあるかもしれない」という形で伝えれば、本人の成長したい方向との距離を縮める情報として機能します。
フィードバックを過去への指摘ではなく、部下の成長志向に火をつける働きかけに変える作業として捉えるのです。
部下を変えるのではなく、部下が変われる土壌を整える
ここまで、部下のコーチャビリティを引き出すための、管理職側の2つの準備について整理してきました。共通するのは、管理職の役割は「部下を変える」ことではなく、「部下が変われる土壌を整える」ことにある、という発想です。
管理職の振る舞いを支える仕組みづくりは、組織全体の人材開発における大きなテコとなります。コーチャビリティやフィードバックに関する研修機会を管理職に提供することや経営層自身が「コーチャブルな姿」を率先して示すことは、組織全体の生産性の向上につながります。
教育・育成の効果は、最終的には受け手の成長プロセスを通じてしか現れません。だからこそ、コーチャビリティは大切です。遠回りのようですが、まずは管理職の「準備」を整えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
●文/廣松啓太(ひろまつ けいた)
フォスターリンク株式会社 組織・人事コンサルタント
一橋大学商学部卒業後、株式会社ユーグレナ入社。直販事業立ち上げの中で、主にフルフィルメント業務全般の立ち上げと整備に従事。同社IPO後に起業を経て、2015年、組織の人事に関するさまざまな支援を行っているフォスターリンク株式会社に入社。国内の中堅・中小企業を中心に、組織設計・要員計画・人事制度設計/導入等のコンサルティングサービスや組織開発・人材開発の支援を行っている。