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メンタルコントロールは仕事の成果や自己成長につながる重要なスキルです。ビジネスシーンでわき起こるさまざまな感情との向き合い方を解説します。(2022年2月1日)
35歳女性、経理事務の仕事をするKさん。昨年末、神田沙也加さんの突然の死や大阪のメンタルクリニックの放火で多くの人が亡くなった事件以来、自分でもびっくりするぐらい落ち込み、死が間近に感じられるようになってしまったという。
Kさんはディズニーアニメ好き。特に「アナと雪の女王」は大好きで、それ以来、神田さんのミュージカルも何度か見たそう。Kさんはやり手の実業家を母親に持っていることもあり、両親が有名人であるという話題性を乗り越えて芸能界での地位を築いた神田さんに、自分を重ねてきた部分があるという。
「これまでもさまざまな事件や事故はあったのに、今回ほどいろいろ考えてしまうことはありませんでした。神田さんは同い年、そのときの情景や気持ちが痛いほど分かるような気がして、ちょっと怖いんです」
また、強烈なファンと言い切れるほどではない自分が、こんなに動揺していることにも戸惑っているという。
ショックを受ける自分にショック
Kさんに「身近な人が亡くなったことはある?」と聞くと、数年前に祖母が亡くなったそう。ただ、そのときも葬儀に参列しただけ。どうも、今回の神田沙也加さんの死がKさんにとって初めての「深刻な死」であったようだ。
私は、まず喪失のショックの大きさについて話した。よく知っている人、身近な人が亡くなるという変化は、本来私たち人間にはとても大きな出来事なのだ。原始人をモデルに考えてみよう。原始時代は常に死と隣り合わせ。身近な人の死は、周囲に猛獣がいる、毒蛇がいる、あるいは病気がはやっているなど、自分にも死が迫っていることを意味する。
また、重要な仲間が欠けると、狩りや農作業の効率も著しく低下する。つまり生き延びるのが難しい状態になったと考えられ、とても怖いことだ。さらに、もし亡くなったのが自分の子供であれば、その悲しみは一段と大きい。DNAを残すという生命の目的が危うくなったからだ。このように、身近な人の死は人間に大きなショックを与え、しばらく安全のために引きこもったり、悲しみを仲間で分かち合わないと立ち上がれないぐらいの出来事だと言える。
Kさんの場合、これまで身近な人の死を経験していない。神田沙也加さんと個人的な付き合いはなくても、映画やステージ、あるいはインターネットなどを通し、かなり身近な印象を持っていた。そのため、熱心なファンではなくても、身近な人の死と同じような反応を引き起こしたのだ。
さらに、それを大きくしたのがコロナの孤立感。東京で一人暮らしをするKさんは、仕事もほとんどリモート。物理的・心理的にも孤独感が募っていたところに、神田さんの訃報と大阪のクリニック放火があり、世の中に対する警戒心が大きくなったのも無理はない。これを話すとKさんは「そうなんですね。だから私も死を身近に感じて、怖くなってしまっているのですね」と少し納得したようだ。
現代人はスーツを着た原始人
マンションで安全・快適に過ごし、コンビニとネットで苦労のない生活ができている現代人は、自分が動物的反応をすることを忘れている。しかし、人の死が大きなショックであることは同じなのだ。
ただ、確かにショックは大きいが、その苦しさは「人が乗り越えられるように設定」されている。喪失の苦しみは、生き残るためのものだからだ。落ち込んで引きこもっている間に、身近にある危険が去り、傷ついた自分の体や心が回復し、新たな仲間が見つかれば、また、活動的になっていく。
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●文/下園壮太(しもぞの そうた)
元陸上自衛隊メンタル教官、メンタル・レスキュー協会理事長、同シニアインストラクター。防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。陸自初の心理幹部として、自衛隊員のメンタルヘルス教育、リーダーシップ育成、カウンセリングなどを行う。退官後は講演や研修を通して、独自のカウンセリング技術の普及に努める。『自衛隊メンタル教官が教える心をリセットする技術』(青春出版社)、『50代から心を整える技術』(朝日新書)など著書多数。
https://www.yayoinokokoro.net/
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