「ChatGPTに代表される生成AIが世の中に広まれば、私たちライターの仕事はなくなってしまうかもしれません」
フリーライター歴20年以上を誇る佐藤夏夫さん(仮名・45歳)は、実際に生成AIサービスを活用してみて、そう痛感したという。生成AIとは、テキストや画像、音声、動画などを自動的に作り出せる人工知能のこと。ChatGPTのような人々に身近なサービスが誕生して以来、「クリエイティブな仕事が奪われる」として話題を呼んでいる。
例えば、映画や小説、音楽などについて、「○○という作品の紹介文を300字以内でまとめなさい」という指示を出せば、ライターが書いた原稿と遜色のない文章を一瞬のうちに作成してくれる。
「生成AIに触れるために試してみて、そのクオリティの高さに衝撃を受けました。すでに世にリリースされている映画や小説、音楽などのちょっとした紹介文であれば、編集者やディレクターはもうライターに依頼する必要はないでしょう」
観光スポットや飲食店の紹介文もしかり。ガイドブックに掲載されている短い紹介文なら、生成AIが作成した原稿で十分対応できそうだという。
「ただ、生成AIはインターネット上の大量なテキストデータを機械学習して文章を作成するので、取材でしか得られないような最新情報はキャッチできません。また、いろいろ試してみて気づいたのは、同じ語尾が被るケースが多く、文章が単調になりがちだということ。あと、『290〜300字以内にまとめなさい』と指示しても30〜40字ほど短い文章が上がってくるなど、人の目を通さず完全に生成AIに任せるのはまだ難しいでしょうね」
佐藤さんの主な活躍のフィールドは、求人サイトや企業の社内報、大学のHPなど。企業で働く社員や大学教授にインタビューを実施し、その内容を原稿にまとめるという仕事だ。
「そのため、生成AIを使って原稿を作成するのは無理ですね。だからといって、仕事が生成AIに取って代わられることはないとは言い切れません。実は、あるクライアントがすでに生成AIを導入する取り組みを進めているらしいんですよ」
生成AIは、ゼロから文章を作り上げるだけでなく、既存の文章をブラッシュアップすることにも役立つ。しかも、「高校生に分かりやすく」などとターゲットを指定すると、難しい言葉をかみ砕いて言い換えるなど、それらしい文章に整えてくれる。
「編集者やディレクターが取材した録音データを文字起こしツールで文章化し、生成AIに整えさせるといったプロセスを踏むと、そこそこの原稿ができるでしょうね。さらに、生成AIに指示を与える“プロンプト”の作成スキルを磨けば、求めるテイストの原稿を思い通りに仕上げることができるはず。そうなると、私たちライターはいらなくなるでしょう」
そんな時代において、ライターは取材力が問われるようになると考えている佐藤さん。つまり、取材対象者から「どれだけいい情報を引き出せるか」が、存在価値になるのだとか。
「編集者やディレクターから、『やっぱり佐藤さんじゃないと!』と思われる取材さえできれば、もうしばらくは生き残れるのではないでしょうか」
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