管理職の悩みの中でも、「仕事を選ぶ部下」への対応は後回しにされがちです。本人に悪気がない場合、「得意なことを任せた方が効率的」「波風を立てたくない」と判断し、見過ごしてしまうケースも少なくありません。しかし、この状態を放置すると業務の偏りや不公平感が生まれ、職場全体にさまざまな影響を及ぼします。
今回は「自分のやりたい仕事だけをやる部下」をテーマに、業務命令と服務規律の観点から、管理職が取るべき対応を整理します。
■今回の事例
営業部のAさん(40代男性)は、顧客対応や企画提案など「対外的な仕事」には積極的に取り組みます。一方、報告書の作成や社内調整といった業務になると「自分は向いていない」「時間がもったいない」と理由をつけ、後回しにしたり、他のメンバーに任せたりしています。Aさんの上司は「彼は成果を出しているから」と強く言えず、結果として他の職員に負担が集中しています。周囲からは不満が出始めており、職場の雰囲気も悪くなっています。このような人には、どう対応すればよいでしょうか?
■解説
今回の事例で管理職が考えるべきポイントは「注意すべきかどうか?」ではなく、「何を根拠に、どう伝えるべきか?」です。現状、Aさんは「自分は成果を出している」「得意な分野で貢献している」と考えており、上司側もそれを否定しきれず、あいまいな対応になっています。
ここで整理すべきなのは、個人の評価や感情ではありません。判断の軸となるのは、「業務命令」と「服務規律」という組織のルールです。この2つを押さえることで感情論ではなく、管理職としての正当な指導が可能になります。
業務命令とは?(企業が指示する仕事を遂行する責任)
業務命令とは、企業が事業運営のために、労働者に対して行う具体的な仕事の指示のことです。内容が業務上必要で、社会通念上相当であれば、労働者は従う義務があります。「好きか嫌いか」「得意か不得意か」は、業務命令を拒否する理由にはなりません。成果を出していることと、指示された業務を選別してよいことは別問題です。管理職がここをあいまいにすると、職場全体に「成果を出せばルールは守らなくてよい」という誤ったメッセージを与えることになってしまいます。
●文/山田真由子(やまだ まゆこ)
山田真由子社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント。26歳のときに3度目の受験で社会保険労務士に合格。さまざまな業種にわたり、約15年のOL 生活を経て、2006年12月に独立開業。現在、「誰もが輝く職場づくりをサポートする」をミッションとして活動している。経営者や総務部担当者などから受けた相談件数は延べ10,000件以上、セミナー登壇は1,500回以上を数える。著書に『外国人労働者の雇い方完全マニュアル』(C&R研究所)、『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)、『すぐに使える!はじめて上司の対応ツール』(税務経理協会)。