近年、退職代行を利用して会社を辞める人が増加しています。退職代行とは、本人に代わって退職の意思を会社に伝え、その後の手続きを請け負うサービスで、専門の代行業者もあります。利用が広がっている背景には「辞めたいと言い出せない職場環境」や「引き止めへの不安」、さらには人間関係や精神的な負担など、さまざまな要因があります。

こうした中、退職代行の在り方そのものが問われる出来事も起きています。一部の業者では、弁護士でないにもかかわらず交渉に関与したり(弁護士もしくは労働組合しか交渉できない)、弁護士への紹介をめぐる問題が指摘されたりするなど、違法性が顕在化しました。その影響もあり、代行業者の中には「交渉可能」といった表現を見直したり、事業を撤退する動きも見られます。
一方で、退職代行のニーズ自体は一定数存在しており、サービスそのものがなくなることは考えにくいでしょう。今回は、突然退職代行から連絡があった事例をもとに、管理職としてどのように対応すべきかを考えます。
■今回の事例
小売業のA社では、人手不足の中、少人数でシフトを回していました。入社1年目の正社員Bさん(20代女性)が、ある日から突然出勤しなくなりました。電話もつながらず、LINEも未読のままでした。体調不良かと心配していたところ、翌日、退職代行業者からFAXが届きました。
内容は「本人に代わって退職の意思を伝える。本日付で退職とする」という一方的な通知でした。Bさんの上司であるC係長(30代男性)は「自分の関わり方に問題があったのではないか?」と悩み、現場は「今日のシフトはどうするのか?」と混乱しています。C係長は、どのように考え、どう対応すべきでしょうか。
■解説
退職代行による意思表示は有効
まず押さえておきたいのは、法律上の位置づけです。労働者には退職の自由があり、期間の定めのない雇用契約であれば、退職の意思表示から2週間で契約は終了します。本人に代わって第三者が意思を伝えた場合でも、その効力は変わりません。そのため、「本人から直接の申し出がない」という理由で、退職の効力を否定することはできません。
なお、即日退職については、直ちに違法となるものではありません。期間の定めのない雇用契約では、法律上、退職の意思表示から2週間で契約は終了するとされています。ですので、「本日付で退職」という通知は意思表示として有効であっても、退職の効力が生じるのは原則として2週間後となります。ただし、会社が合意すれば即日退職として扱うことも可能です。
また、就業規則に「退職するときは1カ月前に申し出ること」と定めている場合でも、いわゆる高野メリヤス事件(東京地裁昭和51年10月29日判決)において、裁判所は「民法627条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である」と判断しています。そのため、この規定を理由に退職自体を認めないことはできないと考えることが妥当です。会社としては、退職の意思を有効なものとして受け止め、必要な手続きを進めていくことが現実的な対応といえるでしょう。
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●文/山田真由子(やまだ まゆこ)
山田真由子社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント。26歳のときに3度目の受験で社会保険労務士に合格。さまざまな業種にわたり、約15年のOL 生活を経て、2006年12月に独立開業。現在、「誰もが輝く職場づくりをサポートする」をミッションとして活動している。経営者や総務部担当者などから受けた相談件数は延べ10,000件以上、セミナー登壇は1,500回以上を数える。著書に『外国人労働者の雇い方完全マニュアル』(C&R研究所)、『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)、『すぐに使える!はじめて上司の対応ツール』(税務経理協会)。