身近に、噓ばかりつく人はいないだろうか。日常会話で笑わせようとして、嘘を言うこともあるだろう。しかし、嘘ばかりつかれるとストレスになる。職場にそういう人がいたら、業務に支障をきたすこともあるかもしれない。
嘘ばかりつく女
42歳の真由美は週3日、ディスカウントスーパーのパートとして働いていた。彼女は同僚に「仕事をしていない日は何をしているの?」と聞かれると、「スイスの建築会社から設計の仕事を請け負っていて、それをしている」とか「フランス語の翻訳をしている」などと言った。同じことを聞かれても毎回、答えが違うので、同僚たちは嘘だと思っていた。
また、学歴について聞かれると「フランスのソルボンヌ大学を卒業した」とか「アメリカのスタンフォード大学を卒業した」などと言った。そして「子供の頃、スペインに住んでいた」とか「ドイツに住んでいる叔母から、来ないかと誘われていて」などと言い、周囲を困惑させていた。
彼女の言うことは「何が本当で、何が嘘なのか?」、分からなかった。周囲は彼女を「嘘つき」と呼んで嫌っていた。また、彼女は仕事でも嘘をついた。全員で回しているトイレ清掃を、やってもいないのに「やりました」などと嘘をつくのだ。
職場で、彼女の嘘は大きなストレスになっていたが、人手不足もあり、会社は彼女に辞めてもらうことは考えていないようだった。また、彼女は嘘に対する罪悪感がなく、どう対処すればいいのか、周囲の人は途方に暮れた。
嘘は自分を守るため?
以前、真由美は帰宅途中に男性に後をつけられた経験があった。そのときから、住んでいる場所を聞かれると嘘を言うようになった。やがて、それがエスカレートし、学歴や育った場所、父親の職業など、さまざまな嘘をつくようになった。ある日、彼女は職場で「父親は一部上場企業の社長をしていた」などと言って、周囲を驚かせた。当初、彼女の嘘は自己防衛が目的だったが、いつしか承認欲求を満たすものに変質していったようだ。
真由美の嘘は、病的な虚言の可能性があり、背後には人格障害があるかもしれない。自分を誇示し、注目されようとするなど、軽い自己愛性人格障害や演技性人格障害、妄想性人格障害などの人格障害が重なっていることも考えられる。プライドを高く保っていたいという欲求もあるようだ。
また、彼女は嘘をつく衝動を制御できないのかもしれない。通常の精神状態であれば、嘘がばれたら社会的な信用を失うことが分かるはずだが、彼女はそれを理解していない可能性がある。そうなると、社会脳の働きが低いことも考えられる。
人はだまされやすい
人には、「見たいものを見て、信じたいものを信じる」という確証バイアスという認知バイアスがある。自分にとって都合のいい情報だけにフォーカスし、それ以外の情報は軽視しようとする傾向のことだ。
また、嘘でも繰り返し話されると、本当のことのように感じてしまうという。人は物事を理解しやすいように理解したい傾向があるので、自分なりに嘘を信じてしまうのだ。できればストレスを感じず、無難な人間関係を保ちたいという人の思いが、嘘にだまされやすい傾向を作っているのかもしれない。
ある研究によると、嘘をつく人は自分のついた嘘に心を奪われやすく、ネガティブな考えを抱きがちで、人生や人間関係の満足度が低いことが明らかになった。また、自己肯定感が低く、みじめさや後悔、不安、恥、怒りなどというネガティブな感情を持っている。彼らは安心感や幸福感、誇りといったポジティブな感情が普通の人より少ないので、少しでも心を満たそうとして嘘をつくようだ。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。