スタッフが定着する組織〜定着施策を考えるヒント〜
少子高齢化などの影響により、労働市場では人手不足が顕在化し始めています。今回は前回に引き続き、人材確保の施策の1つである人の定着について、株式会社コーチングバンク代表取締役の原口佳典さんに解説していただきます。
前回(採用した人に定着してもらう4ポイント)に引き続き、「定着」がテーマです。今回は、雇用形態の面から「定着」を考えていきたいと思います。
パート・アルバイトでもマネジャーに抜擢
以前、ある中小企業さまを訪問させていただいたときに、驚いたことがあります。この会社では、役職と雇用形態が完全に分けられていました。どういうことかと言いますと、パートやアルバイトでもマネジャーになれる、ということです。いわく、例えば新入社員とベテランのパートでは、どちらが仕事をできるかというのは言うまでもないことだ、というのです。この会社の人事制度もすごいですが、それを受け入れている社員もすごいと思いました。
日本にはどうしても、正社員はパートやアルバイトよりも偉いという固定観念があるようです。しかしこの会社に言わせれば、それは「どちらがより働きやすいか」という観点から見れば、関係ないと言います。つまり、ベテランパートは仕事の能力は高いのですが、パートという雇用形態の方が働きやすいのであり、新入社員は、社員であることにステータスを感じているのです。より働きやすい雇用形態を選べる。これぞまさに「定着」のための施策であると言えるのです。
働きやすさのカギは多様性
そもそも新卒採用にこだわるのも、雇用に際してさまざまな情報開示を求めるという日本の雇用も、世界から見ればスタンダードではありません。アメリカで日系企業の現地法人にて、人事部長をされていた方の話を先日、お聞きしました。現地では、人を採用するにあたり、性別・年齢等を記載した書類を出させることはないそうです。
それで書類選考で落として、万が一、訴えられた場合に会社側が言い逃れできないからだそうです。年齢も性別も、それを理由に雇用を拒み、しかも、もともと提示していた仕事の能力があると裁判所が認めれば、それは差別ということになってしまうのだそうです。
ですから、その会社では、採用時に提出する書類は自由記述としており、採用側はその本人が強みであると思うアピールを聞いて採用を決める、というわけです。力仕事なので男性がほしいな、と思って男性名の方を面接したら、ゲイで女性の格好をした方が現れて驚いた、というエピソードも聞きました。そして結局、彼(彼女)は要求していた仕事の基準を満たしていたので、採用することにしたそうです。
日本でここまでの多様性を認める文化はありません。しかし、考えてみれば、多様性を認める文化を持てれば、それだけ働きやすいと感じる人も増える可能性があります。パートだから仕事に無責任、ゲイだから仕事ができないということはありませんし、偏見というのはその文字どおり、範囲を狭めて見ることに他なりません。そこに優秀で御社に合った人材が漏れてしまっているかもしれないのです。
多様性の実現は、中小企業が有利
しかし、こういうことができるためには、実はある秘密があります。それは、働き方と報酬、仕事の内容や責任範囲についての明確な規定が必要、ということです。これは大企業の場合には、なかなか難しいかもしれませんが、中小・中堅企業であればむしろ可能ではないかと思います。 雇用の中で平等や公平というとき、とかく経営者はみんな社員、みんな高給、そしてみんな滅私奉公で働け、と思うかもしれません。しかし、実際には、働いた分や成果を出した分がきちんと評価され、それが報酬に結びつけば良いのですし、その基準が公平であれば、それは平等ということになります。
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●文/原口佳典(はらぐち よしのり)1971年福岡県生まれ。株式会社コーチングバンク代表取締役。早稲田大学第一文学部卒。出版・IT業界を経て、コーチとコーチングを一般に紹介するサービス「コーチングバンク」を開設。講演・研修・セミナーを多数実施。著書に「人の力を引き出すコーチング術」(平凡社新書)、「100のキーワードで学ぶコーチング講座」(創元社)がある。一般社団法人日本支援対話学会代表理事、一般社団法人国際コーチ連盟日本支部理事、日本経営品質賞審査員。http://www.coachingbank.com/
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