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2015年12月、職場でのメンタルヘルス対策として、労働者の心理的な負担の程度を把握するストレスチェックが義務化されました。近年、企業にとってメンタルヘルスの重要性は増しています。豊富な臨床経験を持つ著者が、メンタルヘルスの基礎を解説します。
ストレスの種類とは、「ストレッサー」のこと
第2回(「ストレス」とは何か)で述べましたが、ストレスには「ストレッサー」と「ストレス反応」があります。ストレッサーとは、ストレス反応を引き起こすもの(原因)をいいます。ストレスの種類とは、さまざまなストレッサーのことです。
ストレッサーには、以下のようなものが考えられます。
(1)物理的、化学的、肉体的ストレス
労働環境、労働時間、VDT作業(コンピュータを用いた作業)、病気、栄養の偏り、喫煙、飲酒、睡眠不足、寒さ、暑さ、人混み、薬物、毒、甘さ、辛さ、重さ、運動など
(2)心理的ストレス
怒り、悲しみ、不安、恐れ、喜び、焦りなど
(3)社会的、人間関係的ストレス
人間関係トラブル、評価、時間、解雇、降格、昇格、転職、ノルマ、目標、恋愛、結婚、離婚など
(4)変化
寒いから暑い、平安から不安、安定から解雇など
これらが個体に作用し、ストレス反応となります。そのメカニズムを考えてみましょう。
セリエ博士のネズミの実験
セリエ博士のストレス学説における偉大な発見は、「ネズミの実験中」に見つけられました。ネズミを使った実験で、どのような傷害や刺激に対しても、ネズミの(1)副腎の膨張、(2)リンパ系の縮小、(3)胃潰瘍と心臓の出血が必ず、出現することを発見したのです。
セリエ博士は、医学生のとき、「病気の種類は異なっても、なぜ、共通の調子の悪さが出るのか」と疑問に思っていました。講義中に教授に質問したところ、「そんなばかなことは質問するな」と言われてしまったそうです。
その疑問を解くために、博士はその後の研究で、ネズミに2,000種類もの「縛る」「冷水につける」などの異なるストレッサーを与える実験をしました。この研究の中で、「すべての原因が異なっていても、同じ筋道をたどり病変を引き起こす」(非特異的疾患)という考えを持つに至りました。つまり、ストレッサーの種類は異なっていても、ストレス反応は変わらないということです。
それまでは、特定の病原が特定に病気を引き起こす(特異疾患)、という考えでありました。この新たな学説は、1944年に「ストレス−適応症候群」として、英科学誌『ネイチャー』およびアメリカ医学会誌に掲載されました。
現代では「職業性ストレスモデル」
セリエ博士が考えたストレス反応は、複雑系のメカニズムです。これを分かりやすくしたのが、アメリカ国立労働安全衛生研究所の「職業性ストレスモデル」です。このモデルは、厚生労働省も使用しています。
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●文/佐藤隆(さとう たかし)
株式会社総合心理教育研究所 代表取締役、臨床心理士、精神保健福祉士
日本鋼管病院の精神衛生室および同社人事部兼務にて、日本のメンタルヘルス対策草創期の実務に携わる。慶應義塾大学、明治学院大学にて非常勤講師、東海大学短期大学部にて学科長を務める。学術活動として300社以上の企業および官公庁を対象に、リーダーシップおよび管理職のメンタルヘルスに関する調査研究を実施。多数の企業における人事部・管理職向け研修や人事システム立案に携わる。現在グロービス経営大学院大学教授、ハンス・ セリエ財団カナダストレス研究所上席客員研究員、財団法人パブリックヘルスリサーチセンター客員研究員、日本産業精神保健学会会員。著書に『臨床心理学とストレス科学』(エイデル研究所)、『ビジネススクールで教えるメンタルヘルスマネジメント入門』(ダイヤモンド社)、『職場のメンタルヘルス実践ガイド』(ダイヤモンド社)など多数。
http://www.sipe-selye.co.jp
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