任せた仕事でミスをした部下へ、「他の人にやってもらうから、もういいよ!」と言って、その業務から外し、安易に担当を変えてしまうことはNGです。これ以上失敗されたら後始末が大変、損失が大きくなるかもしれないと考える気持ちは分かりますが、やってはいけません。それが続けば自信を失い、モチベーションが落ちて、下手をすれば離職につながります。
【事例】VIP客にミスをした美容室スタッフ
では、失敗した部下にどのように対応すればよいでしょうか? 私がコンサルティングで関わる博多の美容室では、失敗したスタッフに、叱責をしたり、担当から外して仕事を奪ったりするようなことはしません。
少し前のことですが、若手スタッフ(アシスタント)が、お得意様の施術中にミスをしたことがありました。その店のVIPリストに入る上位顧客ですから、次の来店の際に二度とミスを犯すようなことがあってはなりません。対応としては、そのお客様の担当を外すというのが普通でしょう。
でも、その美容室のオーナーは、個別ミーティングの時間をしっかり持ち、そのスタッフへ、「担当は変えない」「これを機にさらに成長することを期待している」と伝えました。その後、同じようなミスを繰り返さないように、業務の中であやふやになっていた部分を「0」にするためのトレーニングを行いました。そうすることで、その若手スタッフはミスをした施術についても、自信をもってお客様に対応することができるようになったとお聞きしています。
失敗した部下に「期待」と「信頼」を伝える
プロスポーツの世界でも、成績不振が続く選手を時々見かけますが、監督やコーチなど周りからのサポートによって、復活して本来の良さを取り戻したという例はいくつもあります。そのときリーダーは、「期待」と「信頼」を伝えて、成果が出るのを待つことも大切です。
野球の祭典WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の2023年の大会で、日本代表チームの4番打者として起用されたのは村上宗隆選手でした。シリーズの序盤戦で、周りからの期待に応えられず大苦戦を強いられていましたが、当時の監督(栗山英樹氏)は、村上選手をクリーンナップからは外しませんでした。これは期待と信頼の証しで、そのことを村上選手も感じていたはずです。結果として、シリーズ後半の重要な場面でヒット、そして決勝戦でもホームランを打ち、村上選手は日本の優勝に大いに貢献することになりました。
●文/岡本文宏(おかもと ふみひろ)
メンタルチャージISC研究所株式会社代表取締役、繁盛企業育成コーチ
アパレル店勤務、セブンイレブンFC店経営を経て、2005年メンタルチャージISC研究所を設立。中小企業経営者、エリアチェーンオーナー、店長などに向けた小さな組織の人に関する問題解決メソッドや、スタッフを活用して業績アップを実現する『繁盛店づくり』のノウハウを提供している。『仕事のできる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』(WAVE出版)、『人材マネジメント一問一答』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『店長の一流、二流、三流』(明日香出版)、『繁盛店のやる気の育て方』(女性モード社)など著書多数。
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