創業当時の企業や店は経営者が1人で営業したり、ごく少人数で現場を回したりするものです。隅々まで経営者の目が行き届く状況であれば、組織運営において大きな齟齬は生まれにくいのですが、業績が上がり従業員の数が増えてくると状況は一変します。異なる価値観や考え方を持つ人材が加わると、統制が取りにくくなるからです。
そこで必要となるのが、組織で働く者が認識しておくべきルールや行動規範の整備です。一昔前に注目された「クレド(Credo)」はその代表です。経営理念や企業としての価値観を数行の文章にまとめ、従業員はそこに記されていることを心に留め、考え、行動するときの拠り所にします。クレドを活用したマネジメント手法は多くの企業で導入されました。
「企業理念を十分理解している」は約4割
最近では、動画配信サービスを行っているNetflix社の「カルチャーデック(Culture Deck)」が有名です。これは自社の価値観や働き方のスタイルをスライド資料にまとめ、社員に浸透させていくという手法です。ネット上にも公開されているので、全世界の企業に影響を与えています。LinkedInやメルカリなどでも、自社流のカルチャーデックを公開し、採用や人材育成に活用しています。
しかしながら、経営理念が事務所の壁に額縁に入れて飾られているだけで、誰もそこに記されていることを理解していない、もしくは、理念の存在すら知らないというケースも多くあり、ルールや行動規範、理念などを「どのように現場に浸透させるのか」は大きな課題です。パーソル総合研究所の調査(正規雇用就業者1500人を対象とした2023年の調査)によると、「企業理念を十分理解している」との回答は4割にとどまっています。少し古いですが、HR総研が行った調査によると企業理念が社員に浸透していると認識する企業はわずか6%しかなく、「やや浸透している」と合わせても4割強にすぎないというデータもあります。
社員自ら、会社のルールを決める
経営陣やチェーン店であれば本部がトップダウンで一方的に決まりごとを押し付けても、スタッフの中には、反感を抱くケースもあるでしょう。どうすれば、現場に浸透させることができるのでしょうか?
愛媛県の歯科医院では、職場で働くものとして守るべきことや心構えなどを決める際、週に1回行われる全員参加のスタッフミーティングでそれらを議題にし、数カ月かけて「守るべき10か条」としてまとめました。兵庫県の食品製造販売業では、「社員としてのあるべき姿」や「接客ルール」「身だしなみ基準」を明文化する際に、経営陣だけではなく社員自身で意見を出し合い決めていきました。同社は20代の若い社員が多く、ファッションでヘアカラーをするスタッフがいることもあり、行き過ぎた染毛(カラーリング)にならないように、染毛剤の色番号まで話し合って決めていました。
●文/岡本文宏(おかもと ふみひろ)
メンタルチャージISC研究所株式会社代表取締役、繁盛企業育成コーチ
アパレル店勤務、セブンイレブンFC店経営を経て、2005年メンタルチャージISC研究所を設立。中小企業経営者、エリアチェーンオーナー、店長などに向けた小さな組織の人に関する問題解決メソッドや、スタッフを活用して業績アップを実現する『繁盛店づくり』のノウハウを提供している。『仕事のできる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』(WAVE出版)、『人材マネジメント一問一答』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『店長の一流、二流、三流』(明日香出版)、『繁盛店のやる気の育て方』(女性モード社)など著書多数。
https://okamotofumihiro.com/