第7回「職場いじめの正体」
いじめ問題は社会的な大きな課題です。学校でも、会社でもさまざまな問題が発生しています。今回は、従来とは違った形のいじめ問題について考察します。
子供のいじめ問題は大きな社会的問題だ。また会社の「職場いじめ」も年々増加している。日本はいじめ大国になったのか。いじめは被害者に深刻な心の傷を負わせ、場合によっては死に至る問題だ。
私は職場いじめに遭っている
ひろみは29歳、独身。現在、老人福祉施設の常勤職員として勤務し、半年がたった。そんなある日、ひろみは、施設長に「私は職場いじめに遭っています。助けてください」と訴えたのだ。驚いたのは施設長だ。事情を聞くと、日ごろの仕事で自分の意見を無視される、会議で自分の意見が正しいのにまったく採用されないという。また、日ごろの業務でも嫌がらせをされる、と訴えた。
そこで施設長は、いじめ加害者側の職員を呼んで事情を聞いた。すると、その職員はひろみに困っていた。ひろみは自分の意見が通らないと、いじめられたと解釈してしまうというのだ。例えば、ごく普通に施設の介護方針と介護の方法について説明するが、彼女は納得しないで、「自分のやり方が正しいので、全員に自分のやり方をしてほしい」などと言うのだった。
ひろみは「自分は老人心理学を学んでいるので、介護されている老人の苦しみがよく分かる。私の介護方法が最も正しいので、それに従ってほしい」と言う。実際は、その方法もその時々の思いつきで、まったく一貫したものではなかった。周囲の職員はいつもあきれて、対応に疲れ果てていたのだ。
施設長が職員全員から事情を聞いて、「職場いじめ」は存在しないと判断し、本人に説明すると、ひろみは本部の人事担当者に直接訴えた。すぐさま施設長は呼び出され、「職場いじめ」はないという事情を説明したが、厳しく注意された。
ひろみは納得しないので、人事担当者は他の施設への異動を提案した。すると今度は、「どうして、いじめ被害者の私が異動しなければならないのか」と逆切れされ、人事担当者は顔面蒼白になった。ひろみは、以前から情緒不安定なところがあったが、最近は逆切れするなどして気分の変調をきたしていた。
やがて、ひろみがうつ病になり、いじめ問題で職場が訴えられでもしたら、面倒なことになる。施設長はそう思い悩んでいた。
うつ状態になった施設長
その後も幾度となく、施設長は人事担当者に呼び出された。その都度、職場における人間関係が問題なのだから、しっかり管理監督するようにと厳しく注意された。
施設長は次々に職員を呼んで、対応策を話し合ったが、なかなか解決策が見つからない。ひろみは、一貫して「自分が正しい」「自分の意見が反映されない」「自分はいじめ被害者だ」という主張を変えなかった。
やがて、施設長は、精神的疲労が重なり、眠れない日々が続くと、頭痛やめまいで仕事を休むようになった。それでも無理して出勤しているうちに、急速にうつ状態になり、精神科を受診するまでに悪化した。
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●河田俊男
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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