成長の早さこそが何よりのインセンティブ
新任管理職研修で、よく使われるフレーズに「自分の分身を作りなさい」というものがあります。どういう意味かというと、自分と同じことをやれる人を部下の中から早く育てることが、自分にとっても組織にとっても有益だということです。そうすれば、自分自身は次のステップへと足を踏み出すことができますし、組織全体の成長にもつながります。
企業にとって、健全な権限委譲がいかに重要かということです。
成長の早さは、働き手にとって何よりも大きなインセンティブだといえます。給与などの金銭的報酬は一時的なものですが、成長した自分のスキルや知識や経験は、継続的に維持できるものだからです。
早く成長できる環境がある職場には、当然のことですが、ヒトが多くあつまってきます。円滑で健全な権限委譲は、人をあつめるためにも不可欠な要素なのです。
今回は、そんな権限委譲について考えていきたいと思います。
メンバー時代は高い業績を上げていた社員が、管理職になると、部下に仕事を任せることができず、全ての業務を自分で抱え込んでしまい、つぶれてしまうというケースを数多く見聞きします。そして、優秀だった人ほど、こういう負のスパイラルに陥りやすかったりします。
なぜかというと、管理職になっても、メンバー時代の「なんでも自分の力でやり遂げてしまおう」という癖が抜けきらず、本来あるべき「部下の力をまとめて組織的に成果を上げる」ということができないのです。分かりやすく言うなら、「自分でやる」のは得意だけど、「人にやらせる」のは苦手ということです。
部下時代に求められる能力と、管理職として求められる能力はまったく違います。スポーツの世界でも、名選手が必ずしも名監督になれないのは、同じ理由ですね。
管理職には「我慢」が必要で、自分でやりたくなった仕事でも、自分ではやらずに、部下に任せることで、部下が成長し、組織力もアップして、組織としての成果が上がるわけです。
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●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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