タイプの違う人たちが集まった集団は強い
「ヒトがあつまる」というテーマから連想した映画があります。
黒澤明監督の『七人の侍』です。1954年の作品ですから、今から70年も前に公開された映画です。
私が生まれる前の作品で、当然ながらリアルに見ているわけではありません。ただ、今見ても圧倒される迫力と素晴らしいテーマの映画です。
世界中の映画ファンからリスペクトされている作品であり、各国のオールタイムベストテン投票では、常に10位内にランキングされる映画史上の大傑作なのです。
この映画、実はマネジメントの観点から見ても、いろんな気づきや学びがあります。盗賊と化した野武士たちから村を守るために農民たちが雇った7人の侍が、村の人たちと協力して戦うという物語で、何といっても、序盤は侍たちのリクルーティング、つまり「ヒトをあつめる」の話から始まります。農民からの依頼を受けた島田勘兵衛(志村喬)が、最低限必要な仲間を集めようとするのです。
最近ではネット配信などでも気軽に観られるので(とはいえ、3時間27分の映画で、それなりに気合も必要ですが…苦笑)、具体的なストーリーはぜひ映画をご覧ください。
7人の侍たちの組織の中での役割をマネジメント的な観点から整理しておきます。
・島田勘兵衛(志村喬)経験豊富で冷静沈着なリーダー。器の大きな人徳者でもある。情に厚く、それでいて目標達成のためには厳しい判断もできる。
・片山五郎兵衛(稲葉義男)リーダーをあらゆる面で支える参謀役。サブリーダーとして、常に的確なアドバイスを勘兵衛に伝える安定感抜群の人物。
・七郎次(加東大介)勘兵衛のかつての家臣。リーダーの意図をあうんの呼吸で理解し、実行できる。リーダーへの忠誠心においては他の誰よりも強い。
・林田平八(千秋実)組織を盛り上げてくれるムードメーカー。苦しいときほど場を和ませ、組織全体のモチベーションを維持してくれる貴重な存在。
・久蔵(宮口精二)剣豪(剣術におけるスペシャリスト)。求道者的におのれの技術を高めようとする。専門性が高い分、一匹狼的なところもある。
・菊千代(三船敏郎)時として組織の枠をはみ出してしまう起爆剤。鋭い問題提起をして、組織にいい意味での波風を立てる。
・岡本勝四郎(木村功)最年少でまだ学びの途中段階。未熟だからこそ他の全員が武士としての精神や技術を伝承しようとして、組織の一体感を高める存在でもある。
これだけ見ても、いかにこの7人がそれぞれの役割を組織の中で果たしているかが分かると思います。同質の人たちが集まっただけでは強い組織にはなれません。異質の人たちが集まってこそ、その補完関係から組織は機能するのです。
南極観測隊の初代隊長だった西堀栄三郎さんの言葉に、「同じ性格の人たちが一致団結しても、その力は和の形でしか増やせない。異なる性格の人たちが団結すれば積の形で大きくなる」というものがあります。
まずは「ヒトがあつまる」組織をつくる際には、いろんなタイプの人をあつめることが重要なのだと強く認識してほしいと思います。
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●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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