今は、仕事に限らず、何でもスピードが要求される時代ですが、人を育てることにおいては、ある程度時間が必要となります。部下に業務を任せたとき、それを1人でこなせるようになるには、何カ月もかかる場合があります。
その過程でミスをしたり、手間取っているように見えたりした際、「自分がやった方が早い」とか「任せるべきではなかった」と思って、部下から仕事を奪ってしまうようなことはしてはいけません。モチベーションが下がり、上司、部下の人間関係に亀裂が入る元凶となります。
信じて待つことが上司の仕事
人を育てるには、“相手を信じて待つ”ことが大切です。私が研修で関わっている兵庫県の食品販売卸業の経営者は、「信じて待つ」ことの実践者です。
数年前のこと、社員間でちょっとしたトラブルが起こったことがありました。その際、関係者から事情を聞き出し、問題の原因となった社員に対して、社長としての考えを伝えた後、ペナルティーを与えることはせず、新たな業務を任せて「その仕事にどのように取り組むのか」を、少し距離を置いて静観していました。
そのとき、私もその社員と何度か直接お話をする機会がありましたが、初めは社長が伝えたことを、きちんと受け止められていないように感じました。時間が経過するにつれ、徐々にトラブルの原因は自分にあると気づきだし、考え方と行動が変わっていきました。
その社員の考え方が変わり、行動が大きく変化するまでの過程で社長が行ったことは、口を挟んだり、横から手を出したり、仕事を奪ったりするようなことではなく、その社員が変わることを信じて待つことでした。
もちろん、静観しているだけではなく、頻度多くその部下と話をする機会を作り、彼の言い分も聞き、そのうえで、自分の考えを根気強く伝え続けられたのです。考え方が、企業が求めることとズレていたり、進む方向(ゴール設定)が間違えていたとしたら、いつまでたっても、部下は正しい言動を取ることはありません。その場合は、正しい考え方、進むべき方向はこちらであると再度、理解させることが必要です。
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●文/岡本文宏(おかもと ふみひろ)
メンタルチャージISC研究所株式会社代表取締役、繁盛企業育成コーチ
アパレル店勤務、セブンイレブンFC店経営を経て、2005年メンタルチャージISC研究所を設立。中小企業経営者、エリアチェーンオーナー、店長などに向けた小さな組織の人に関する問題解決メソッドや、スタッフを活用して業績アップを実現する『繁盛店づくり』のノウハウを提供している。『仕事のできる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』(WAVE出版)、『人材マネジメント一問一答』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『店長の一流、二流、三流』(明日香出版)、『繁盛店のやる気の育て方』(女性モード社)など著書多数。
https://okamotofumihiro.com/