医療従事者は職業柄、高いストレスを抱えています。そのため、医療現場では積極的に心の健康を保つ取り組みを行っています。医療現場のメンタルケアを解説します。(2025年10月30日)
「仕事の後も気持ちが切り替えられない」「ミスをしていないか不安で、寝る前まで考えてしまう」―そんな経験はありませんか?
命をあずかる医療の現場では、常に緊張感が続きます。小さな判断ミスが命に関わるという責任の重さから、「あの対応でよかったのだろうか」「もう少しできたのでは」と自分を責めてしまうこともあります。
こうした、終業後も「仕事モードのまま休めない状態」は、ストレスを慢性化させ、心身の不調につながる大きな要因になります。職場で抱えた感情をそのまま家に持ち帰らないためには、どこかで意識的に気持ちを切り替えることが必要です。今回は、医療従事者が実践している仕事とプライベートを切り替える感情コントロール術をお伝えします。
心は休みたいのに、緊張が抜けない
医療現場では、仕事が終わっても神経が高ぶったままの人が少なくありません。帰宅しても仕事のことを考えたり、注意された言葉を何度も思い出したりするのは、脳がまだ「仕事モード」だからです。特に「怒り」「焦り」「不安」などの感情は、頭で考えるよりも長く体に残ります。これは、ストレスホルモンが分泌された状態が続いているためで、心が落ち着きを取り戻すまでには時間がかかります。この状態が続くと、十分に休息を取っても疲れが抜けず、次の日のパフォーマンスにも影響します。
夜勤明けの場合は、特に切り替えが難しい時間帯です。夜間の緊張が続いたまま朝を迎え、日光を浴びると交感神経が活発になります。「ようやく終わった」と感じていても、体はまだ「仕事モード」のまま。私が医療従事者として病棟に勤務していた頃、夜勤明けの看護師さんたちが「眠いのに頭が冴えてしまって寝つけない」「帰っても患者さんのことが気になってしまう」と話していたのをよく覚えています。
その感覚はビジネスパーソンとして働く人にも共通しているのではないでしょうか。心は休みたがっているのに、体が緊張から抜けきれない——そんな状態に、多くの人が無意識のうちに陥っているのです。そのまま帰宅してすぐ寝ようとしても、なかなか眠れなかったり、仕事のことが頭を離れなかったりする。そんなときは、感情の「OFFスイッチ」を意識的に作ることをおすすめします。
白衣で、仕事とプライベートを切り替える
感情をコントロールするというと、「我慢する」「切り捨てる」と思われがちですが、そうではありません。大切なのは、感情を感じたままにせず、意識的に切り替えることです。医療従事者の中には、勤務後に「気持ちをオフにする工夫」を持っている方が多くいます。
例えば…
・病院を出たら深呼吸をして空を見上げる
・終業後はゆっくり手を洗う
・帰りの車内や電車で好きな音楽を聴く
・夜勤明けはスパに寄ってから帰る
こうした行動は、「ここで勤務を終える」という小さな合図を自分に送ることにつながります。意識して区切りをつけることで、体も「今は休んでいい」と認識しやすくなります。
私が行ってきた医療従事者向けの研修の中で、看護師の方々がよく口にする言葉があります。それは「白衣を着たらプロ、脱いだら一人の自分に戻る」というものです。
この視点を活用できるのではないかと思い、研修では白衣を意識的に「OFFスイッチ」として使うことをご提案しました。着る瞬間に「仕事モードON」、脱ぐことで「プライベートモードON」。「感情を整理し、心を守る境界線になった」と嬉しいお声をいただきました。
●文/吉村園子(よしむら そのこ)
株式会社Tree代表取締役、心理学の学校Tree代表理事、上級心理カウンセラー、行動心理士、米国NLP協会認定NLPプラクティショナー
独自のカウンセリングメソッドを活かし、「上からでも下からでもなく、横からそっと心に寄り添う」をモットーに活動を行っている。心理学セミナーやグループコンサルを年間200回以上実施、個別のカウンセリングやコンサルティングは延べ3000人以上を数える。著書に『一瞬で気持ちを切り替える脳内ひとりごと』(三笠書房)、『40年間おデブだった私がリバウンドなくスッキリ-13kgやせた!!マインドフルネスダイエット』(主婦の友社)。