医療従事者は職業柄、高いストレスを抱えています。そのため、医療現場では積極的に心の健康を保つ取り組みを行っています。医療現場のメンタルケアを解説します。(2026年1月8日)
医療の現場には、医師・看護師・リハビリ職・薬剤師・相談員・事務職など、多様な専門職が働いています。さらに看護師だけを例にしても、学歴や経験はさまざま。診療所・クリニック・中規模病院・大学病院など働いてきた環境も異なります。
その違いはチームに厚みをもたらす一方で、ときに、「誰に相談していいのか分からない」「理解してもらえないかも」「本音を言いづらい」といった孤立感につながることがあります。こうした孤立を和らげ、仲間同士が自然に支え合える仕組みとして注目されているのがピアサポートです。
ピアサポートとは何か?
Peer(ピア)とは「同じ立場にある仲間」という意味です。つまりピアサポートとは、同じ立場・同じ経験・同じ課題を持つ仲間同士の支え合いのこと。がん患者さんやご家族の「お話会」、精神疾患の当事者会、育児中の母親同士の集まりなど、「似た経験を持つ者同士が語り合う場」は、さまざまな現場で長く活用されてきました。そこでは、きれいごとではない生の声が自然に交わされます。
「そういうこと、あるよね」
「私も同じ経験をしたよ」
「自分だけじゃないんだ、と安心した」
専門家の助言とは別の力で、同じ経験をした仲間の言葉だからこそ、心にすっと届くことがあります。そしてこの仕組みは、患者さんやご家族だけでなく、日々ケアを続ける医療従事者自身にも必要な支えだと私は思います。
「話しただけで、何か変わるのだろうか?」そう疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、あなたにも人に話すことで気持ちが整理される、共有することで孤独が薄れる、「自分だけじゃない」と思えた経験があるのではないでしょう? 私たちは揺れながら働く生身の人間です。だからこそ、「思いを語らえる場」「語り合える仲間」は、心を守るための大切な土台になります。
1時間以上もトイレを後回しに
心理カウンセラーとして駆け出しのころから、私はずっと「ケアする人こそ、ケアされる必要がある」と思っていました。患者さんのために全力を尽くす医療スタッフが「実は一番疲れているのではないか?」との思いが強まるような場面に、私は何度も出会ってきました。
例えば、看護師が患者さんのベッドサイドにぶら下がっている尿の破棄をしていたときのこと。「これを処理したらトイレに行こう…」と看護師がつぶやいていました。しかし、作業を終えようとした瞬間、ナースコールが鳴り「すぐ伺いますね」と返事をして次のケアへ向かっていく。そのまま処置、申し送り、また別の呼び出し──。気づけば看護師は1時間以上もトイレを後回しにしていました。医療現場では特別ではなく、日常茶飯事のことです。看護師であっても、自分を犠牲にしてしまう時間が続くと、心も体も静かに疲弊していきます。膀胱炎になる方も多くいました。
当時、私は「目の前の仲間をケアしたい!」心から思いました。そこで看護師に限らず、職種を超えて病院全体のスタッフに向けたピアサポートとして、勤務後30分の『心が軽くなる心理学ミニ講座』を始めました。その講座の中で、自然に交わされた声は、どれもよく似ていました。
「最近、患者さんにうまく寄り添えなくて…」
「忙しくて誰にも言えなかったんです」
「その気持ち、わかります。私も同じです」
立場が違っても、心の揺れは同じように存在している—その事実に気づかされた瞬間でした。医療の現場では、職種ごとに大切にしている視点も、抱える悩みも異なることがあります。しかし、同じような戸惑いや苦しさを経験していることは意外と多いのです。その根っこには、共通の願いがあります。「患者さんにとって、よりよいケアを届けたい」ピアサポートは、その共通点を「支え合い」に変えていく関わり方です。
●文/吉村園子(よしむら そのこ)
株式会社Tree代表取締役、心理学の学校Tree代表理事、上級心理カウンセラー、行動心理士、米国NLP協会認定NLPプラクティショナー
独自のカウンセリングメソッドを活かし、「上からでも下からでもなく、横からそっと心に寄り添う」をモットーに活動を行っている。心理学セミナーやグループコンサルを年間200回以上実施、個別のカウンセリングやコンサルティングは延べ3000人以上を数える。著書に『一瞬で気持ちを切り替える脳内ひとりごと』(三笠書房)、『40年間おデブだった私がリバウンドなくスッキリ-13kgやせた!!マインドフルネスダイエット』(主婦の友社)。