かつて私がアパレル専門店のエリアマネージャーをしていたとき、複数の店舗を巡回し、マネジメントと指導を行っていました。ある店は、業績はよいのに、なんとなく店の空気がよどんでいる。ある店は皆が元気に生き生きと仕事をしている。同じブランドの店舗で、同じ商品を販売し、同じような商業施設で出店しているのに、店の雰囲気が全く別物ということがよくありました。
その違いを作っているのは、店のリーダーである店長の言葉です。本人が思っている以上に強い影響力があります。何げなく口にした一言が、よくも悪くも職場の空気をつくり、スタッフの行動の原動力にもなります。発する言葉によって、組織の文化が形成されると言っても過言なしです。
職場の士気はリーダーの言動に影響される
店によってはスタッフが、店長の話し方、歩き方、同性であれば髪形や服装、笑い方まで一緒というケースも少なくありませんでした。電話で話をすると、「店長なのかスタッフなのか分からない」ということもあるほどでした。このように部下は日々、リーダーの言動を無意識のうちに見聞きし、影響されているのです。
リーダーが「どんな場面で、どんな言葉を使うのか」はとても重要です。例えば、業績が思わしくないときに皆の前で弱音を吐くと、店全体の空気が重くなり、モチベーションが下がってしまいます。逆に、苦しい状況に置かれていても、前向きな発言をすれば職場の士気は高まります。
もちろん、我慢ばかりする必要はありません。上司がいるのであれば、部下の前でネガティブな発言をするのではなく、上司や同期に吐き出せばよいのです。もし社内にそうした相手がいなければ、社外にガス抜きができる場を持つことも大切です。家族やパートナー、信頼できる友人など、自分の気持ちを受け止めてくれる人に話を聞いてもらいましょう。心のバランスを保つことは、リーダーにとって不可欠なことです。
リーダーがビジョンを語れば、組織の結束と成長が加速する
リーダーが皆の前で、組織の向かう方向や目指す未来(ビジョン)を言葉にして示し、それを実現させていくことは、組織の成長速度を高めると同時に結束力を強めます。ビジョンとは、単なる数値などで表す目標ではなく、「この先にどんな未来が待っているのか?」を具体的にイメージさせる言葉です。メンバーをワクワクさせてモチベーションを高めるための言葉です。
例えば、アメリカの第35代大統領であるジョン・F・ケネディは、「ニューフロンティア」というスローガンを掲げ、その後、アポロ計画を発表し、1961年の議会演説で「10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」ことを宣言し、アポロ計画を推進していきました。途中、悲劇が襲い、本人は帰らぬ人となりますが、そのビジョンで語られたことは8年後(1969年)に、ニール・アームストロング船長が人類として初めて月面に降り立ち達成されました。結果としてアメリカ経済の停滞を打破することに貢献しました。
●文/岡本文宏(おかもと ふみひろ)
メンタルチャージISC研究所株式会社代表取締役、繁盛企業育成コーチ
アパレル店勤務、セブンイレブンFC店経営を経て、2005年メンタルチャージISC研究所を設立。中小企業経営者、エリアチェーンオーナー、店長などに向けた小さな組織の人に関する問題解決メソッドや、スタッフを活用して業績アップを実現する『繁盛店づくり』のノウハウを提供している。『仕事のできる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』(WAVE出版)、『人材マネジメント一問一答』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『店長の一流、二流、三流』(明日香出版)、『繁盛店のやる気の育て方』(女性モード社)など著書多数。
https://okamotofumihiro.com/